「太陽が頭上高く昇った頃、海を渡って舞い戻った浅羽実桜は、眩しい陽射しを背に私の方へ歩いてきた。」
友人の林妤梅に早く会いたい、ずっとこの日をまだかまだかと待ち焦がれてきたことが伝わってくるような始まりであった。
もちろん芥川賞候補作だったから手に取った本。
吸い込まれるように、引き込まれるようにしてしばらく読み進めることとなった。
「朋あり遠方より来たる、亦楽しからずや」
学而篇の一番目に書かれてある論語の言葉を思い出した。
日本で生活している台湾人の林妤梅。
台湾で生活している日本人の浅羽実桜。
日本と台湾で離れ離れに生活していたW大学の同級生同士。
彼女らは5年ぶりに池袋で再会を果たし抱擁を交わした。
妤梅にとっての実桜は、留学先の大学で唯一仲良くなった中国語を話せる友だち。
このふたりは意気投合するものの、大学卒業後妤梅は日本で就職し実桜は台湾に就職し離れ離れになってしまう。
ふたりは池袋の中華料理店で懐かしの味を楽しみつつ、過去と現在の状況を織り交ぜながら近況報告を話し合う。
台湾での実桜の生活が詳細に語られるにつれて、妤梅は自分自身の台湾での記憶やこれまで飲み込んでいた気持ちが湧き上がってくる。
飲み込んでいた気持ちは詳細には語られないが、妤梅の実桜への愛のようなものだと感じ取れる。
妤梅は実桜への想いを漢詩にしたためていたが、どうしても実桜に渡すことができないでいた。
戸惑いやためらいなど妤梅の本音があぶり出されるように描かれた終わりであったが、なんかじれったくて胸がすこしせつなくなった。
<目次>
五つ数えれば三日月が
セイナイト
1989年台湾生まれ。作家・日中翻訳者。2013年来日。「独り舞」で群像新人文学賞優秀作を受賞しデビュー。
