解離性同一性障害。いわゆる二重人格。
ジキル=善。ハイド=悪。
この図式でジキルは純粋な善ではなく、悪への欲求を理性によって抑えていた善だと感じた。
古今東西、薬物による快楽に一旦身を置いてしまうと、理性によって抑えるのが難しくなりそれに依存してしまうのだろう。
薬物によって内面だけではなく、顔つきや声、筆跡や利き手などの外見までも変えてしまうところえげつなくホラー的だった。
全体におどろおどろしく誠に恐ろしい雰囲気を醸し出してくれていた。
最も印象を受けた箇所は、最終章の「ヘンリー・ジキルが語る事件の全容」。
なぜ教養高く高潔な紳士ジキル博士が、見るからに邪悪で粗暴であり罪を犯すようなハイド氏に変身するようになったのか。
なぜジキルはそれをやめようとしなかったのかなどを赤裸々に語るところ。
それらを聞くと彼の行動は決して奇怪なものではないように思われた。
欲望と理性との狭間で揺れているのが人というもの。
自分を見失うほどに欲に溺れるのも、自己を抑制しすぎるのも良くないのではないか。
ときどき何か別のもので発散していくなど、どのようにして折り合いをつけて生きていくのかが課題であり問題であろう。
どんな人にも善と悪が共存しているもの。
うまく欲望と理性とのバランスを保ってなんとか生きていければよいと思った。
約130年前の当時のロンドンの霧が立ち込める情景が随所に散りばめられていた。
まるで絵に描いたように目に浮かぶ記述が心地よかった。
また、ジキルやアタスンのような古きよき時代の英国紳士の立ち振る舞いも垣間見られて嬉しかった。
この物語を歴史的にも甘く重厚的にぼくを愉しませてくれて読んでいて幸せだった。
ロバート・L,スティーヴンソン
1850‐1894。イギリスの詩人・小説家。エディンバラ大学で工学を学ぶが、後に弁護士の資格を取得する。1879年にアメリカへ渡り、翌年結婚し帰国。生来健康がすぐれず、1890年より南太平洋サモア島に移住するが、4年後に急死した。
※「ハイド ダニエル・ルヴィーン 訳 羽田詩津子 角川書店」
スティーヴンソンのほうはジキル博士の視点で、この本は主にハイド氏の視点で話が進む。
話の流れは同じだが、ジキルとハイドそれぞれ視点が変わるだけでひとつの物語が楽しくなるとは思わなかった。
<目次>
一日目 朝
一日目 午後
一日目 日暮れ
二日目 夜明け前
二日目 朝
二日目 黄昏
三日目 夜明け前
三日目 正午
三日目 夜
四日目 夜明け
訳者あとがき
ダニエル ルヴィーン。
アメリカ、ニュージャージー州出身。ブラウン大学で英文学とクリエイティヴ・ライティングを学び、フロリダ大学でフィクション・ライティングの美術学修士を取得。高校や大学で作文やクリエイティヴ・ライティングを教え、“HYDE”で小説家デビューを果たす。コロラド州ボールダー在住

