母・早苗と息子・力は、逃げなくてもよかったのではないか。
いずれ直面せざるを得なかった父親・拳の女性問題。
東京を離れても、どの地方に行っても、どこにいても、いつか女優・遥山真輝のエルシープロの関係者に見つかってしまう。
しばらく目を背けても、時間を稼ぐだけのはずだった。
しかしながら、その間で、父、母、息子の家族は、三人の絆の大切さにやっと気づいたのだった。
あの大震災の悲劇は、決していまも終わっていない。
小説の中だけでなく、ぼくら日本人のDNAのなかにもずっと受け継がれていくのだと読みながらそう思った。
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「今はスマホとか誰でも簡単に写真が撮れる世の中ですけど、ここにいると、それでも写真館が必要とされるってはっきり思えるんです」
写真館には、“きのう”と“あした”の仕事があると言った耕太郎の話を、早苗は力から聞いていた。失われた“きのう”を辿り、“あした”の思い出を新たに作る。この写真館で撮られる新しい写真は、“あした”を向く覚悟をした人たちの背中を押すものなのかもしれない。
―見てほしかったね、と成人式のお姉ちゃんが言ったことを思い出す。
お父さん、と呼びかけた。母親の声も。
<目次>
川漁の夏休み
坂道と路地の島
湯の上に浮かぶ街
あしたの写真館
最終章 はじまりの春
1980年生まれ。千葉大学教育学部卒業。2004年『冷たい校舎の時は止まる』で第31回メフィスト賞を受賞し、デビュー。『ツナグ』で第32回吉川英治文学新人賞、『鍵のない夢を見る』で第147回直木賞を受賞。著書多数
