定年退職して暇を持て余している主人公のオヤジ、常雄は、同居している娘から「神話の世界に生きている」と言われる。
「子どもを産んでない女は半人前だ」
「女性には生まれながらに母性が備わっているのだ」
「子どもが問題を起こしたら母親に責任があるんだ」等々。
またお父さんではなく「アンタ」扱いで呼ばれるようになった。
また、娘からとげがある言葉も発せられた。
「結婚はしたくない。婚活、妊活、保活などで大変。息つく暇もない。将来が心配でうらやましくなんて思わない。アンタみたいな父親を見て育ってきたから結婚はしたくない」
「物の豊かさよりも心の豊かさへ」と呼ばれて久しい。
欧米の先進国に追いつけ追い越せというスローガンのもとに、高度成長期を経て日本全体でがんばって今の地位を築いてきた。
その結果として物にあふれて欲しいものはすぐに手に入る時代となった。
便利な過ごしやすい世の中になって結果的には素晴らしいとは思う。しかし……。
以前は、三世代同居が普通であったが、いまは核家族や一人世帯へと変わってきている。
祖父や祖母、兄弟が同居していない子育ては、当然ながら妻などの一人への負担が大きいのが現実だ。
夫は仕事や外の付き合いさえやっていれば、家族を顧みなくても妻が家のことをすべてやってくれたように、夫は外で働いて妻は家を守るというような役割分担の雰囲気があった。
夫は仕事が人生の全てのように働き続けた退職の前までは、朝から晩までは家に返ってこなかった。
それはそれで問題がなかったように見えただけであった。
定年後には、オヤジは仕事人間だったのですることがなくて、家にいて妻を部下のように命令する毎日が続いた。
こうなると、妻は「夫源病」-「主人在宅症候群」を患うこととなった。
夫がいっしょの空間にいると、気持ちがつらくなる精神的な病気に。
こうなってしまっていけない!
これから何もしないでいるとこのオヤジのようになってしまうだろう。
自分の定年後の姿を見ているかのように感じられて辛かった。
こうならないためにはどうすべきなのか。
今から考えても早くもないし遅くもない。
例えば、家族を病気にさせないようにするために、また家族がいきいきとした健康的に過ごせるために、趣味などで何か意欲を持って組めることをするほかに、いまからどのような言動をしていけばよいか考えさせられるよい機会となった。
1959年、兵庫県生まれ。明治大学文学部卒。2005年、「竜巻ガール」で小説推理新人賞を受賞し小説家デビュー。結婚難、少子高齢化、震災、住宅ローンなど社会問題を題材にした小説で支持を得る。ほかの著書に「リセット」「夫のカノジョ」など。
