5P「笑いは悪魔だ。どんなに緊張した場面にも登場のチャンスを狙って見逃さない」
いくつもの話のつながりをもたせ小説を完成するために必要な山下や髙木、悟との間でのジョークや下ネタ話。
落ち込んいる仲間を勇気づけようと、馬鹿なやり取りができる仲間たちの友情がよくわかる。
至る所に散らばめられていた彼らの話は、会場の空気を潤してくれるようでぼくは嫌いじゃなかった。
また寄席や漫才の記述から、たけしさんならではの実績や知識、教養などがすごく肌で感じられた。
それらを垣間見ることができてぼくはとても愉しかった。
デジタル化された時代に主人公の悟とみゆきが交わした約束。
「木曜日に喫茶店『ピアノ』に来て会うこと」
お互い相手の素性も連絡先も知らないままに。
強烈に惹かれあうアナログ的な二人の関係。
デジタルがこれからどれだけ驚異的に進歩しても、昔から変わらないものがある。
直接、顔と顔を会わせることの大切さと必要性。
話し言葉の意味を表情を観ながらこころで感じあえる意味は大きいものだと思う。
小説には、その人の生き方や考え方が現れてくるもの。
ぼくは、たけしさんの恋愛に対するピュアな想いがいじらしく感じられて仕方がなかった。
1947年東京都生まれ。芸人、映画監督。テレビやラジオの出演、映画や出版の世界などで活躍する。
著書に「新しい道徳」など多数。
171P
再会から二か月後、みゆきとの暮らしが始まった。
みゆきが、悟のデスクの隣で窓外の海を見ている。彼女の横顔がほころんだように見えた。
その笑顔を、楽しいとか可笑しいとか、言葉で表すのは難しい。まるで仏のような、もっと大きな愛を感じさせる。子供の頃いつもアパートで一人、時間を持て余し泣いていた自分を、帰って来た母が隣に座り、じっと見守ってくれている―あたかも、そんな気がした。
心から安心して彼女の隣で仕事をしている自分、あれだけ現代的電子機器を使って仕事をするのを嫌がっていた自分が、今それらのおかげで愛する人と生活できるようになったのは皮肉な話だった。
しかし、AIやコンピューター技術がいくら進歩しても、時折みせるみゆきの微笑み以上の笑顔が作れるのだろうか?
俺にとって、一番美しく幸せな景色とは、微笑むみゆきの横顔である。いつか犬でも飼って新しい車を買い、みゆきと犬を乗せてどこかへ遊びに行こう。
悟はそんな未来に思いを馳せると、またコンピューターに向かった。
