札幌の中島公園近くにある大きなお屋敷。
訪れた本人が気付かない業を持った人が偶然吸い寄せられるように引き寄せてしまう館。引き寄せられるこの罪多き人たち。そこに住んでいる人たちもまたミステリアス。
短くキリがよいから読みやすい。
終わりのパターンは一緒だけどもライトミステリなのでちょうど良いか。
推理と不思議なお話で楽しめる。
読んでいる人もついつい引き込まれる6つの短編集。
<目次>
さいしょの客 友人と、その恋人
2人めの客 はじめての一人旅
3人めの客 徘徊と彷徨
4人めの客 懐かしい友だち
5人めの客 待ち人来たらず
さいごの客 今度こそ、さよなら
1966年愛媛県生まれ。九州大学理学部卒。97年、鮎川哲也編『本格推理11』に短篇「暗い箱の中で」を発表、2002年『アイルランドの薔薇』で長篇デビュー
38P
これは、偶然なのか?
偶然だ。当たり前だ。
たとえ知っていたとしても、あのときの上本に、そんな判断力はなかった。
でも、結果的に僕たちは、この館に入ってしまった。北良氏という、とてつもなく頭の切れる男性が住んでいる館に。
いや、入ったのではない。囚われたのかもしれない。上本も僕も、そして友理奈も、それぞれに業を抱えていた。この館は、業に反応したのではないか。そして業を抱えた人間を取り込んでいく、食虫植物のような館。まったく理性的ではない考え方だけれど、ごく自然にそう考えられた。
北良氏が門を開けた。僕は門をくぐる。そして館の敷地から出る。
中島氏が申し訳なさそうな顔をした。
「謎が解かれてしまった以上、あなたはここにいてはいけないんです。悪く思わないでください」
意味はわからなかったけれど、納得はできた。
「はい」
僕がそう答えると、門が閉じられた。
僕は、館から解放された。
202P
「あの人もやっぱり秘密を抱えていたな」
「そうですね」北良は、感情を読ませない表情で答える。「この館に引き寄せられる人たちは、みんな何らかの業を抱えています。罪であったり、秘密であったり。あの人も例外ではなかったということでしょう―僕も含めて」
