世界最初の全身麻酔による乳癌手術に成功し漢方から蘭医学への過渡期に新時代を開いた紀州の外科医、華岡青洲。
麻酔の発見に自分の嫁と母親を実験台として使ってこれによって妻が失明します。
妻と姑との確執があり数々の心理バトルが繰り広げられます。
以前、嫁の加恵は、姑の於継に憧憬の想いを抱いていました。
夫が戻ってくるまでの三年間はまるで本当の母娘のように仲良くしていたのにかかわらず、
青洲が留学から帰った途端、於継の加恵への態度は冷淡なものとなりました。
於継は、青洲が一番と考えていたからです。
母親にとっての息子というのは、かくも可愛いものなのでしょうか。
加恵の中での於継への憧憬や敬愛は、凄まじいほどの憎悪へと変わっていくのです。
加恵と於継だけでなく、この二人の女と青洲との間を一歩引いて冷静に眺めていた小姑の小陸の存在は重要だ。
「私は嫁に行かなんだことを何よりの幸福やったと思うて死んで行くんやしてよし。(中略)女二人の争いはこの家だけのことやない。どこの家でもどろどろと巻き起り巻き返ししてますやないの。嫁に行くことが、あんな泥沼にぬめりこむことなのやったら、なんで婚礼に女は着飾って晴れをしますのやろ」
二人の女の争いを気づかずに見て見ぬふりをし、医学の進歩のことしか頭にはなかった青洲の徹底した姿から、冷徹とも不気味にとも感じとりました。
他の作品も読んでみたくなるほど、切れ味や迫力、筆力があり、
やはりこれは名作だ。
