ものすごくシリアスなお話だったあの「ナオミとカナコ」
直美と加奈子は、ちゃんと出国できたのだろうか!
ハラハラ、ドキドキのとき。
心臓がバクバクしながらも先をむさぼるように読んでいました。
ドラマにもなったあの小説を書いた著者さんの作品なのかなとちょっと頭をかたげるくらいに懐が深く感じます。
差し迫った重大なヒミツというわけではなく、五つの家族のそれぞれの物語。
このなかには悪い人はいなくて、みんな良い人だし良い人に恵まれている環境なので心がホッとします。
大きな事件はないしだれも死なない。
日常に起こりうるようなお話ばかり。
ユーモラスなおはなしなので面白くて安心して読めるからさわやかな読後感が得られました。
<目次>
虫歯とピアニスト 7
正雄の秋 45
アンナの十二月 93
手紙に乗せて 145
妊婦と隣人 191
妻と選挙 231−
1959年岐阜県生まれ。雑誌編集者、プランナー、コピーライターを経て、1997年『ウランバーナの森』で作家デビュー。2002年『邪魔』で大藪春彦賞、2004年『空中ブランコ』で直木賞、2007年『家日和』で柴田錬三郎賞、2009年『オリンピックの身代金』で吉川英治文学賞を受賞
82P
「もう充分働いたと思う。残りの会社員人生、楽したってバチはあたらないって」
「でも定年まで七年だぞ」
「あっと言う間。仕事だけが人生じゃないって」
「そう簡単に気持ちが切り替わらない。ずっと仕事が中心だったしな」
酒が入って、少し気持ちがほぐれた。考えてみれば妻と差し向かいで飲んだのは何十年ぶりか。
「船を乗り換えればいいのよ。もう少し小さくて、ゆっくり進む船」
美穂も顔を赤くしていた。確かにそうである。白幡が言っていた。船のキャプテンは一人だと。選に漏れた人間は、静かに下船するのが礼儀だ。
