【No.312】罪の声 塩田武士 講談社(2016/08) | 朝活読書愛好家 シモマッキ―の読書感想文的なブログ~Dialogue~

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読書とは――著者や主人公、偉人、歴史、そして自分自身との、非日常の中で交わす対話。
出会えた著者を応援し、
本の楽しさ・面白さ・大切さを伝えていきたい。
一冊とのご縁が、人生を照らす光になる。
そんな奇跡を信じて、ページをめくり続けています。




フィクションにフィクションを掛けても、フィクション。


でも、もしあのノンフィクションにこのフィクションを掛けたら、真実となるのはないか。そんなような気がしてならない。



 

「本作品はフィクションですが、モデルにした『グリコ・森永事件』の発生日時、場所、犯人グループの脅迫、挑戦状の内容、その後の事件報道について、極力史実通りに再現しました。この戦後最大の未解決事件は『子どもを巻き込んだ事件なんだ』という強い想いから、本当にこのような人生があったかもしれない、と思える物語を書きたかったからです。ご多忙の中、真摯に質問の答えを探してくださった全ての皆様に、心から感謝を申し上げます。著者」



 

「最大9人がこの事件に関わっていたのか、2つの実行グループで動いていたのか!?」


これがフィクションだとわかっていても、書かれてある内容が事実だったのではないかと思えてしまって心が乱されます。


無駄なシーンの少ない書き口から物語に入りやすい。


前半の各種調査が進行するのと平行して過去の事件を説明するやり方も巧み。


中盤以降はすっかり事件の中に身をおけることができます。



「チャンスは人を通じてやってくる」


京都、大阪、滋賀、名古屋、広島、イギリスなどに足を運びながら、人を通じて情報がこれだけ数珠つなぎのように上手く繋がっていくのか感心してしまいます。


また、ぼくもずっといっしょに回っていたかのような感覚に陥ります。




 

仕立て屋を営む曽根俊也と新聞記者の阿久津英二の二人の主人公が、正反対まではいかない絶妙なアングルの違いが面白い。この重たい話のなかにも明るい色を醸し出しています。


綻びのない重厚なストーリー性があって、リアリティさと切迫感さとがあります。


 

「グリコ・森永事件」という実在の事件を扱うミステリーとして、完成度が高く傑作の域に達する小説。

「面白かった」






 <目次>

プロローグ 4

第一章    11

第二章    58

第三章    109

第四章    158

第五章    205

第六章    266

第七章    339

エピローグ 400

 

◎1979年兵庫県生まれ。関西学院大学社会学部卒。新聞社勤務後、2010年『盤上のアルファ』で第5回小説現代長編新人賞を受賞し、デビュー。同作は第23回将棋ペンクラブ大賞(文芸部門)も合わせて受賞した。他の著書に、『女神のタクト』『ともにがんばりましょう』『崩壊』『盤上に散る』『雪の香り』『氷の仮面』『拳に聞け!』がある。












399P

「俺らの仕事は因数分解みたいなもんや。何ぼしんどうても、正面にある不幸や悲しみから目を逸らさないけど、諦めたらあかん。その素数こそ事件の本質であり、人間が求める真実や」

隣に視線を向けると、鳥居は阿久津の肩に手を置いた。

「ご苦労さん」

踵を返した鳥居の言葉が、じんわりと胸の内に響いた。そして、自分は今、素数を手にしているだろうかと考えた。まだ割れると言い聞かせて前を見る。











409P

海は何も語らず、陽は淡々と沈んで刻一刻と空色を変える。頭上に広がる群青色の幕は切ないほどに美しい。俊也はこのまま静寂の中に吸い込まれていくような錯覚に陥った。瞼を閉じて、全てを出し切るように長く息を吐く。

確かにここにいると自分に告げるのは、磯の香りを運ぶ冬の風だけだった。