世の中にはこういった事例があるんじゃないかな。
不妊治療と特別養子縁組という重く難しい課題について考えされられます。
事情があって子供を産んでも育てられない母親「ひかり」
不妊治療が難しく特別養子縁組でようやく子供を授かった母親「佐都子」。
ふたりで物語が綴られていきます。
それぞれの話の展開がもつれるにつれてこの中に引きこまれます。
ラストの光が射すような希望を持たせる終わり方には、次に踏み込んで書かれた話があれば、その続きも読んでみたい衝動に駆られます。
ひかりも含めて佐都子や子どもの朝斗らみんなが救われる未来があってほしいな。
<目次>
第一章 平穏と不穏
第二章 長いトンネル
第三章 発表会の帰り道
第四章 朝が来る
◎1980年山梨県生まれ。2004年『冷たい校舎の時は止まる』でメフィスト賞を受賞しデビュー。11年『ツナグ』で吉川英治文学新人賞、12年『鍵のない夢を見る』で直木賞を受賞
133P
神が、ふわふわしている。眉が薄い。色のない唇が何かを追いかけるように微かに動いた。おっぱいを探しているのかもしれない。清和の手が、その頬に触れる。
「かわいいなあ」と彼が言った。
その瞬間、思った。
恋に落ちるように、と聞いた、あの表現とは少し違う。けれど、佐都子ははっきりと思った。
朝が来た、と。
終わりがない、長い暗い夜の底を歩いているような、光のないトンネルを抜けて。永遠に明けないと思っていた夜が、今、明けた。
346P
すぐ横に朝斗がいた。ひかりのことを朝斗が見ている。好奇心に駆られたように、近づきたくて、また近づけないように。
夏の雨が、だんだんと和らぎ、視界を覆う雨の膜が薄くなっていく。止まない雨を降らせながらも、雨雲と雨雲の間に細く隙間ができる。まばゆいほどのオレンジ色の夕陽が、雨粒を一筋一筋、光を当てて透明にしていく。
金色に輝く、その雨の中で。
朝斗の澄んだ目が、二人の母親をじっと見つめていた。