最終まで読み進めないと、感情を押し殺して生きている峰岸晄の復讐の動機がわからない。
興味本位だけでは読みすすめてはいけない。
そんな気持ちが暗くなるような小説。
読後感のけだるさ、
気持ち悪さ、
空気の重さを感じる。
悲愴感と暗い影が漂っているような憐れな雰囲気がものすごく滲み出ている。
男の心の奥底に差す光は何!
絶望の幼年期を過ごした男。
なんとか生き延びて犯罪に手を染めていく男。
この男を突き動かしているものは?
自分の心を殺し続けた男が最後に見せる想いは、じつは驚くほどにピュアな気持ちだった。
<目次>
二〇〇一年 晄、十四歳 5
二〇〇三年 晄、十六歳 39
二〇〇六年 晄、十九歳 73
二〇〇八年 晄、二十一歳 131
二〇一二年 晄、二十五歳 169
二〇一六年 晄、二十九歳 229
◎1968年東京都生まれ。早稲田大学商学部卒業。「慟哭」でデビュー。「乱反射」で日本推理作家協会賞、「後悔と真実の色」で山本周五郎賞を受賞。
75P
電話の向こうから聞こえる声は、明らかに狼狽していた。人間はある程度予想していることでも、実際に自分の身に起きてみないと真実と感じられないものだ。まさか、ひと言釘を刺しておけばこちらが素直に従いと思っていたわけではあるまい。頭が悪い人間は、想像力がない。想像力がないからこそ、いざ現実に直面すると慌てるのである。この仕事に就いてから晄は、頭が悪い人間を山ほど見てきた。
「ちょ、ちょっと、職場には電話しないでくれって頼んだじゃないですか」
