285P「僕たちは、死んでも構わないと思っているだ」
明日にも、将来においても、何が起こるかは誰もわからない。
だからこそ、
「素晴らしい人生だったよ」
「やりたいことをやったから満足」
「本や人とのご縁が深まってとても楽しかったよ」
「面白い一生だったね」……。
などというような素敵な言葉を抱きながら、毎日を生きていきたいものです。
<目次>
第一部 復帰
第二部 苦闘
第三部 復活の日
第四部 再びの栄光へ
第五部 闇と光
◎1963年生まれ。青山学院大学国際政治経済学部卒業。2000年『8年』で第13回小説すばる新人賞を受賞し、デビュー。警察小説とスポーツ小説の両ジャンルを軸に、意欲的に多数の作品を発表している
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竜神を通俗なハンサムと評するのは簡単だが、それだけではないのだ。勝利への強い意志、今まで積み上げてきた練習が支えた自信、しかし自分を客観的に、厳しく観察できる能力。それらの複雑な内面が滲み出て、強い表情を作っている。最近の日本人にはすっかり見られなくなった顔つきで、往時の侍はまさにこんなイメージだったのではないか。
私が女だったら、すぐにでも結婚したい。
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「僕たちは、死んでも構わないと思っているだ」
突然、ライコネンの口から飛び出した「死」という言葉に、私はぎょっとした。ライコネンの眼差しは真剣で、冗談を言っているとは思えない。
「トップレベルに近づけば近づくほど、目標のレベルは高くなるんだ。メダル一つでは満足できなくなって、次のメダルが、あるいはもっと輝くメダルが欲しくなる。そうやって選手たちが競い合う姿を、観客も望む。僕たちは、見せ物なんだから」
「見せ物って……」
「僕たちを支えてくれるのは、観客なんだ。彼らの懐から出る金が、僕らのキャリアを支えている。期待は裏切れないんだよ」
「プレッシャー?」
ライコネンが無言でうなずく。唾を呑んだが、いかにも億劫そうだった。
