読み終えてふと顔を上げたときに、現実と虚構との間にある種の違和感が生じます。
非現実!
これが読書の醍醐味だろう。
ぼくはこんな人とはけっして知り合いにはなりたくない。
こんなおぞましい女性がいるのならば、早く警察に捕まってほしいと思った。
例えば、唆す、騙す、陥れる、操るなど、相手の人生を狂わすような話術が巧みであり、かつ美貌も兼ね備えた悪女。
これほどのに近い人がいるならば、みんなが早く気づいてほしい。
166P
「蒲生美智留という人はね、燃え上がる炎みたいな人なの」
恭子は嘲るように笑った。
「虫けらが近づいても焼け死ぬのがオチよ」
稀代の悪女のラストには驚かされます。
<目次>
一 野々宮恭子
二 鷺沼紗代
三 野々宮弘樹
四 古巻佳恵
五 蒲生美智留
◎1961年岐阜県生まれ。「さよならドビュッシー」で「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し2010年にデビュー。ほかの著書に「追憶の夜想曲」など。
157-158P
言葉には感情を増幅させる力がある。
普段、漫然と感じていることが確固とした言葉に変換された途端、より強くそれを思い始めるようになる。
弘樹が美智留から示唆を受けたのは、つまりそういう作用が働いていた。また美智留が聡明で、かつ美しい女性であった点もそれに起因する。思慕や憧憬の念を喚起するものは、しばしば崇拝の対象になり易い。
自分を家に縛りつけようとする家族―特に父親―が自分の飛翔を妨げる敵であると認識するには、さほどの時間を必要としなかった。
168-169P
世の中が悪いのだ。
弘樹たちのような若者にちゃんとした居場所も与えない癖に、無職であることを罪悪であるかのように言う。軽率な行動なら大人だってしているのに、まるで若年層の専売特許のように糾弾する。社会のシステム自体が歪になっているのに、その責任を全て個人におしつけようとしている。それが怖くて自信のない者は部屋に閉じ籠り、匿名性をたった一つの拠り所として鬱憤を晴らし続ける。
全部、世の中のせいだ。