ぼくにとっても、あなたにとっても、誰とっても残りの人生のなかで今日がいちばん若い日。
兎に角今日がいちばん若い日なのです。
毎日はワクワク、ドキドキ、ウキウキするような出来事ばかりじゃないけれども、たまにそうしながらも有意義な人生を歩んでいきたいものです。
家族や恋愛、そして病気など喜怒哀楽の時とともに、それぞれの人の生きざまがあります。
これは、日々賢明に生きているほのぼのとしたお話です。
幸せってこんな当たり前の日々のの積み重ねなのかなって思います。
優しい気持ちになれる物語です。
☆1954年、東京都生まれ。90年『ストリート・チルドレン』で野間文芸新人賞候補、92年『サウダージ』で三島由紀夫賞候補。『ぴあ』の編集者を経て、96年より作家専業
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この三年間に冴美の小説を何冊読んだのか、直太郎は正確には憶えていないが、優に十作を超えている。書き続けていれば文章はうまくなる。人物造形は深みを増し、場面転換も巧みになった。だが、決定的なものが欠けていた。読み終えてふと顔を上げたとき、現実とのあいだに生じる違和感だ。それが読書の醍醐味だが、冴美の作品にはそれがなかった。ストーリー展開や伏線の回収は及第点だが、心を揺さぶられるような感動がない。結局、何作書いても、三年前に最終選考に残った小説を超えることができなかった。
106P
だが、こうして年相応に老けてしまった柏原を前にすると、あの頃の彼の若さがひどく異様なものに思える。それはまるでクローゼットの下の方から見慣れない派手な服を発見し、なぜここにこんな服があるのだろう、と訝しんだ次の瞬間、その原色づかいの服を着てはしゃいでいた昔の自分をふいに思い出し、顔面にさっと血が上るような気恥しさに似ている。
「断られるかと思ったよ、飯なんか誘っても」
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「それでね、そのあとの話がとっても嬉しかったから、それを柴田さんに聞いてもらいたかったの。そうやって走って、不安な気持ちのまま、お花畑に着いたとき、菜摘ちゃん、思ったんですって。自分だけが生きてるんじゃなくて、こうしてお花たちもみんな生きてるんだと。そう思ったら、いままでの変な感じが急になくなって、ぼやけて見えていた景色が、急にピントが合ったようにくっきりきれいに見えて、花や木の他に、魚とか虫とか、いろんなものがすごく身近に感じられてきて、いままで胸の中にずっとあったモヤモヤした感じ、不安な気持ちがすーっと消えたんですって」
