誰に対する「長い言い訳」なのだろうかと思って。
ドラマか映画になるようなおはなしかな。
著者さんが映画監督なのかもしれないね。
映像が目に浮かぶような書き方をしているなと思って。
淡々とした情景と激情がある景色との使い分けがうまい感動の物語。
◎1974年広島県生まれ。2002年「蛇イチゴ」でオリジナル脚本・監督に初挑戦デビュー。
毎日映画コンクール脚本賞等、国内映画賞の新人賞を獲得し、その後は「ゆれる」「ディア・ドクター」「夢売るふたり」を発表。
映画監督としての仕事に加えて、小説、エッセイの執筆等、幅広い活動に対する評価も高い。
18P
結婚する前の恋愛段階で、めろめろに燃え尽きてしまうのが男女の常と聞いていたが、我々の縁の濃さはそんなもんではない、と思えた。日を増すごとにお互いへの理解が深まり、尊敬が深まり、甕に水が満ちて行くように、慈愛がかさを増して行く。そう思えていた。
179P
あんたにとってその家族って、一体何なんだ。同じ境遇で家族を亡くした者同士が、お互いの心に空いた穴を埋め合うように共存しながら再生し始めた、というおはなしか。ほんとかよ。僕にはどうも一方的なんじゃないかという気がするね。
309P
―ねえたしか君は昔ピアノをやっていたんだよね。この曲は何という曲なの。
そう尋ねてみたが、その耳にもう妻の声が返ることはなく、ただ風に溶けた名も知らぬ曲だけが、軽やかに町を包んでいた。衣笠幸夫は、そして初めて、他の誰のためでもなく、また悔恨からでもなく、ただ妻を思い、泣いた。
