「影山博人」女たちを魅了する力を持つ非常に恐ろしい男。
ここでふと流れている底知れない物哀しさや哀愁などがいい。
桜木さんの紡ぎだす言葉たちは、ぼくの肌に無性に合っています。
あの「ホテルローヤル」を読んだときからこう思っていて。
読んでいてなぜか安心するんですよ。
ぼくは、こんな作風が好きだな!
<目次>
恋人形 7-32
楽園 33-61
鍵 63-92
ブルース 93-120
カメレオン 121-150
影のない街 151-175
ストレンジャー 177-203
いきどまりのMoon 205-236
◎1965年北海道釧路市生まれ。
2002年「雪虫」で第82回オール讀物新人賞を受賞。
07年、初の単行本『氷平線』が注目を集める。12年『ラブレス』で第1回「突然愛を伝えたくなる本大賞」、13年同作で第19回島清恋愛文学賞、13年『ホテルローヤル』で第149回直木賞を受賞
◎27P
それまでもつきあったりもしたのだが、みなつまらなかった。この人は、と思い肌を重ねた相手もあったが、そういう男には牧子以外にも女がいた。誠実でも不実でも、男と体を繋げると欠落した部分は埋まる。けれど相手が誰であっても牧子が肌に感じる温もりは博人のものだった。
◎217P
国会議員も博人の前では金の話しかしない。日本のはずれまでやって来て土下座をしている代議士に「なんとかしますよ」と微笑むときの博人は、美しいとしか表現しようのない顔をしていた。慈愛でもない情でもない、おそらくは憎しみですらない。あの微笑みを撮れたら、といつも思う。十代の娘に見えるところで「裏仕事」をしていた父の思惑は、思わぬところで露わになった。
高校時代、写真の道に進むと宣言した際、博人が言った。
「莉菜、お前は悪い女になるといい。足の下にあるものを根こそぎ踏んづけて行け。いい女になんかなるもんじゃない。どうせなるなら、怖いものなんてひとつもない女のほうがいいだろう。男と違って女のワルには、できないことがないからな」
そばで聞いていたまち子が、からから笑った。
「この人のいい女の基準はあたしだからねぇ。莉菜、あんたは顔の作りがいいから性根は悪くていいのかもしれないよ」
