ここは、法廷なのでしょう。
二人の男女が映っています。
お互い後ろ向きで。女性の髪は乱れて手で顔を覆っています。
この場面が、この小説を如実に語っていますね。
“ダブル・フォールト”のようなテニス用語に関係する場面も出てきます。
“さわやかな感動を呼ぶミステリー”との紹介があり……。
◎1961年生まれ。アニメーション制作に携わった後、91年『連鎖』で第37回江戸川乱歩賞を受賞し作家デビュー。
96年『ホワイトアウト』で第17回吉川英治文学新人賞、97年『奪取』で第10回山本周五郎賞と第50回日本推理作家協会賞、2006年『灰色の北壁』で第25回新田次郎文学賞を受賞
90P
人は、生きていけば笑いもするし、怒りを他人にぶつけてしまう時だってある。些細な感情のもつれから恨みや妬みが生じ、人間関係のホコリとして積もっていく。
「確かにそうですよね。重箱の隅をつつかれれば、僕だって恥ずかしい過去ばっかりです」
240P
「おっと―それが貫けないから悩んでいるなんて、学生みたいな弁解は聞きたくないぞ。理想のために努力できない弁護士なんか、誰が頼ってくれるものかよ。食事ものどを通らないほど悩んでいるのは、依頼してくる人たちのほうだ。弁護士は悩むのが仕事じゃない。ただ法律を偉そうに解釈するのも仕事とは言えない。おれたちは知恵と技術を駆使して、依頼人の背中を時に優しくさすり、時にはたたいて応援する。たとえ裁判に負けても、力を合わせて精一杯に立ち向かうことで、依頼人が力強くその先へ歩いていけるように手伝う。それが仕事だと、おれは信じてるけどな」
364P
そうだとも、僕らはまだやり直せる。
少し力を入れすぎたせいで、最初のサーブを失敗したにすぎないのだ。
僕は自分にうなずくと、震える彼女の肩を、そっと抱しめた。
