特別機動捜査隊に関連する作品、映画・Vシネ・テレビドラマ・動画に限定せず、あるいは脚本・監督にこだわらず、主観的に関連性がありそうと判断したものを取りあげました。

 

 

【リングの王者 栄光の世界】

 

 

(公開日・本放送日)

1957年4月10日公開作品、新東宝

2004年以前(?後述)に、(株)テック・コミュニケーションから新東宝映画傑作選としてDVD化

(脚本)内田弘三

(監督)石井輝男

(出演者)

宇津井健、池内淳子、中山昭二細川俊夫、鮎川浩、小高まさる、若杉嘉津子、

伊沢一郎、天知茂、真山くみ子、毛利啓子、福田則子、山田美奈子、御木本伸介、

真木裕、大谷友彦、高松政雄、小森敏、倉橋宏明、岡竜弘

 

 

(特捜隊関連事項)

特捜隊で、藤島主任を演じた中山昭二、関根部長刑事を演じた伊沢一郎、荒木部長刑事を演じた細川俊夫が出演。

また、特捜隊・高倉主任最終話・#646 嘆きの天使でゲスト出演した原知佐子が、当時の芸名・田原知佐子として出演(ダンスガール役か? 映像では判断が難しい)。

 

 

(備考)

・DVD発売年月については新譜で購入したにもかかわらず、当時は無関心で、BOX未記載であることに気づかず。唯一、同封されていたアンケートハガキの「料金受取人払」の有効期限が、2004年6月9日までとあるので、それ以前の発売だと推察。

・配役名は、映画・Movie・Waikerを参考に作成。

・石井輝男監督のデビュー作品。

・以前紹介した、憲兵と バラバラ死美人は1957年8月6日公開なので、遡ること4カ月前の作品であり、大蔵新東宝を象徴する、冒頭の燃える太陽マークや製作者表示はまだ無い。

また、当作の直後4月29日には新東宝が一気に躍進(?)する、「明治天皇と日露大戦争」(シネマスコープ版)が公開された。

 

 

(あらすじ)

 

新聞記者・畑(伊沢一郎)は、魚河岸で働く塚本新一郎(宇津井健)に底知れぬセンスを感じ、拳闘(註・ボクシング)の道へと誘う。新一郎の母・志づ(真山くみ子)、食堂で働く恋人・京子(池内淳子)の反対もあったが、実家の借金、妹・敏子(福田則子)の足の手術代のこともあり、新一郎は拳闘家(註・ボクサー)になることを決心する。

 

そして、畑は新一郎をあるバーに連れて行く。バー・マダム(毛利啓子)のもと、働くバーテン・岩崎(中山昭二)に、新一郎を指導するよう依頼するためだった。岩崎は断るものの、畑の挑発もあり、路地裏で新一郎の腕前を見ることになる。新一郎は全力を出して岩崎に挑むも、返り討ちになる。それもそのはず、岩崎は身を持ち崩したものの、かつては拳闘家として鳴らしていたのである。が、新一郎の奮闘に光るものを見た岩崎は、新一郎のトレーナーになることを承諾、旭光拳闘倶楽部へ共に通うことになった。

 

そこでは、倶楽部の古参・三田村(細川俊夫)やその取り巻き(鮎川浩)に、嫌がらせにも似たシゴキを受けるが、新一郎は岩崎の指導のもと拳闘家デビューを果たす。が、試合観戦に来ていた京子と、新一郎の姿を見るにつけ、岩崎は畑に相談する。岩崎が身を持ち崩したのは女のこともあったからで、今が拳闘家として大切な新一郎に、女は近づけるべきではないと考えたのである。畑は了解し、ある日、新一郎には内緒で京子に会いに行く・・・。

 

 

(視聴録)

宇津井健の主演でありながら、主人公を支える側の中山昭二、伊沢一郎も光る作品といってもいいと思います。様々な障害-たとえば京子との離れ離れの生活、あるいは誘惑-たとえば映画後半に出てくるキャバレー・マダム(若杉嘉津子)の接近など、これらが有りながらも乗り越えていく拳闘家・新一郎の姿が主題です。

普通ならば、新一郎と京子の話をメインに進行させるのがベタな展開であるのですが、脚本・内田弘三の妙も有り

・岩崎が新一郎にかける思い-自分が果たせなかった夢を新一郎に託し、新一郎が堕ちていくのを救うため単身挑んでいく

・畑の協力や支援-岩崎の意をくみ協力、また挫折した新一郎に助け舟を出す

ところをクローズアップしたところなど新鮮さを感じました。

 

石井輝男監督も、この3人一体となってストーリーを進めていくなど、デビュー作にしては恵まれたとともに、新一郎が越えなければならない壁・三田村を細川俊夫に演じてもらったことも奏功。「大俳優 丹波哲郎」の97頁以降にある

>でも俳優としては硬い。ただ喧嘩は強い。おそらく俳優で、一番強いのは細川

>俊夫さん。俳優になるかボクサーになるかの分かれ目にいた。

という細川俊夫の人となりも、当作での宇津井健を引き立たせる一因になっており、丹波哲郎が評した「硬さ」も、当作では大きな武器になっていたと思います。

 

そして、後年の石井輝男監督の萌芽らしきものは、新一郎、三田村の拳闘場面にあります。いくら白黒映画とはいえ、血しぶきが飛び散るところは、当時の映像では新鮮さ、ショッキングなところがあったのではと考えます(黒澤明「用心棒」を遡る4年前の作品です)。

これに似ているのが、イタリアンホラーの名手、ルチオ・フルチ監督(サンゲリア」「ビヨンド」)が挙げられます。マカロニウエスタンでは「真昼の用心棒」(1966年、フランコ・ネロ、ジョージ・ヒルトン主演)を撮っていますが、射撃の際の残酷描写は、まさに後年のスプラッターの萌芽を見るようでした。当作の石井輝男演出も、後年から見れば、そういったものをつい感じます。

 

それでは、当作が佳作レベルかといえば話は別です。音声と映像のバランスが悪い(複数人物の登場場面で、1人しか映っていないのに、もう1人の声だけが聞こえる)、クローズアップされた登場人物のその後が描かれない、新一郎の挫折からの復活のタイムラグが短すぎるなど、見ていて画面に引き込まれないのが欠点。特に、新一郎の挫折の要因のひとつでもある、キャバレー・マダムがあれっきれで出てこないなど消化不良は否めません。

ですので、当作は石井輝男監督のデビュー作という範疇で、肩を張らずに、のんびりと観賞したほうがいいのかもしれません。

 

しかし、それでも、岩崎と畑、中山昭二と伊沢一郎の息の合った会話のキャッチボールは、後年の特捜隊・藤島班、藤島主任と関根部長刑事の組み合わせを感じます。wikiの過去履歴を見ると、藤島主任と関根部長刑事の初顔合わせは、#348  風の中の恋(脚本・西沢治、監督・天野利彦、1968年6月26日放送)であり、当作の10年後であります(東映chでは【第2回再放送】されていますが当方未見)。

自分の見た、2人の特捜隊・初顔合わせは#453 狙え!事件記者であり、三船班で見る関根部長刑事とは違い、床几に構えるどっしりとした風格で捜査に臨む姿でした。自然と藤島主任も引っ張られていくようでした。その遠因は、考えすぎでしょうが、当作での息の合ったコンビネーションが、特捜隊で行かされたような気もします。

 

(追加)

あと劇中で、畑のトレンチコートを着た風貌は、チョッキのせいもあり、メガネをかければ関根部長刑事そのものといった感があります。