特別機動捜査隊に関連する作品、映画・Vシネ・テレビドラマ・動画に限定せず、あるいは脚本・監督にこだわらず、主観的に関連性がありそうと判断したものを取りあげました。

 

 

【特捜最前線・#209  三千万を 拾った刑事!】

 

 

(公開日・本放送日)

1981年5月6日本放送

2009年4月DVD-BOX発売

(脚本)横山保朗

(監督)天野利彦

 

(出演者)オープニング

神代警視正(二谷英明)、船村刑事(大滝秀治)、橘刑事(本郷功次郎)、

紅林刑事(横光克彦)、叶刑事(夏夕介)、吉野刑事(誠直也)、

高杉婦警(関谷ますみ)、桜井刑事(藤岡弘)

 

(出演者)エンディング

工藤明子、中田譲治、柳沢紀子、桑原一人、山田光一、新橋正浩、門谷美佐、

内海志津、山井達雄、河野洋子、村木勲、吉田照義、佐藤道郎、細谷有喜子、

三上博子、宮田恵理子、平凡太郎、草薙良一、石山律雄

 

 

(特捜隊関連事項)

特捜最前線・#193 老刑事 鈴を追う!の約4カ月後に本放送された、特捜隊常連の横山保朗脚本、天野利彦監督の作品。特捜最前線の横山保朗脚本は当作で9作目。

なお、当作の10年近く前、特捜隊で本放送された、#565 誘拐(1972年8月30日本放送、横山保朗脚本、田中秀夫監督)のリメイクでもある。

 

 

(備考)

・歌舞伎町広場の場面があるが、今では噴水広場、コマ劇場、ミラノ座ビル、オデオン座ビルも無くなっており、往時をしのぶ貴重な作品。

・ネット検索では、一部に、柳沢紀子が一ノ瀬レナ(特捜隊#651以降、準レギュラーで演ずる一ノ瀬玲奈)と同一人物とあるが、当方未見のため指摘のみにとどめる。

 

 

(予告篇から・あらすじ)
・・・・・・・・・・・・・・・・・(ナレーション・レポーターで五木田武信)

 

偶然出会ったひったくりが持っていた三千万の大金は、

赤ちゃん誘拐事件の身代金だった。

何も知らない紅林、叶両刑事は、紙袋を使って罠をかけたが、

逆に落とし穴に嵌ってしまった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・(神代が桜井に指示を出す場面)

神代「いかん、最悪の事態になった。

   叶が刑事だということがバレれば、赤ちゃんまで殺してしまう・・・。

   すぐに、親父さん(註・船村を指す)に連絡して、叶の身元がバレんように

   みんなに徹底させてくれ!」

・・・・・・・・・・・・・・・・・(ナレーションに戻る)

身代金を横取りされた犯人たちの怒りと焦りを背負い、

耐え忍ぶ叶刑事の最後の賭けが始まった・・・。

「三千万を 拾った刑事!」、特捜最前線、御期待ください。

 

 

(視聴録)

 

歌舞伎町のビル2階にある喫茶店では、紅林、叶、吉野が改造拳銃を持つむらかみ(未詳)と落ち合う派手服の女(未詳)を張込んでいた。叶は、窓から外を見下ろすと紙袋を持つベージュ服の女(工藤明子)の姿を見るが、吉野と階下に降り彼女と接触、落とした紙袋を渡すと怯えた表情をしたのが気になっていた。その後、むらかみが現われ派手服の女共々逮捕。

 

連行する途中、叶は、黒服の男(中田譲治?)がベージュ服の女から紙袋を奪い逃げるのを目撃、追跡する。すんでのところで逃がすものの、紙袋を取り返した叶は、中身に驚くとともにサングラス男(草薙良一)から尾行されているのに気づき、ビル2階の喫茶店に戻り特命課に連絡するが、つい非常用電話にかけてしまう。電話に出た船村に叱責されるも、紅林の応援を得ることになる。叶は、到着した紅林に、紙袋の中身は3千万の現金、サングラス男が階下で見張っていることを伝え、対策を練る。

 

一方、ベージュ服の女は紙袋を奪われると車で去ったことで、桜井は藤江和哉(石山律雄)のマンションを突き止める。訪ねると藤江は、妻・りつこは外出して居ないというものの、3千万を警察が取り返した話をすると藤江は動揺、部屋の奥の震える人影から、りつこがベージュ服の女であることは明らかだった。さらに桜井は、立ち去るとき、部屋入口の前川牛乳店と書かれた牛乳箱に、牛乳が手つかずで残されたいるのに疑問を持つ。そこで、牛乳店を訪ね、店主・前川(平凡太郎)に聞きこむ。藤江は大学の小児科の先生で、生後8か月の赤ん坊・まり(未詳)がおり、りつこに母乳が出ないため、前川のほうで牛乳配達をしているという。桜井は誘拐を直感、犯人のふりをして藤江家に連絡をすると案の定で、神代に連絡する。

 

誘拐の件を知らない紅林、叶は、パチンコ店でサングラス男を捕まえる算段をつける。パチンコをする叶の足元の紙袋を、紅林が新聞紙の入った紙袋とコッソリすり替え安全なところへ隠す、そして、サングラス男が叶から偽紙袋を奪ったら2人で追跡、逮捕するというものだった。

 

しかし、誤算が生じた。紅林がすり替え、パチンコ店の外に出たところ、置引捜査中の私服婦人警官2人(未詳)に捕まってしまったのだ。単独追跡を余儀なくされた叶は、駐車場でサングラス男を捕まえるものの、後ろから後頭部をスパナで殴打される。当初、紙袋を奪って逃げた黒服の男(後に、みつおと呼ばれる)だった。紙袋の中身が新聞紙だと知った2人は激怒、叶を車に乗せて走り出す。その跡には、叶の流した血溜に警察手帳が残されていた・・・。

 

 

上記は、開始14分ころまでをまとめたものですが、#565 誘拐 の(視聴録)の前文に酷似していることに気づくと思います(以下、前作、当作と略称)。まったく同じ脚本ではなく、、前作は地方ロケ、当作は都内ロケの違いもあり、前作を踏襲したオリジナル脚本と位置づけるのが正しいでしょう。前作は、三船主任が縦横無尽に活躍するストーリーで、この人には限界というものが無いのかと驚かせ、それでいて誘拐された女の子をわが子のように可愛がるところが売りでもありました。そして、孤立無援の山の中での単独事件解決など、「個人」にスポットライトをあてた作品で、田中秀夫監督の良さも見受けられます。

 

対して当作は、叶が拉致監禁された後、3千万を巡って、犯人側と特命課側との虚々実々の駆け引きを描いたものです。前川の妻・れいこ(柳沢紀子?)の怪しげな行動、逆探知や3千万を巡る双方の攻防も、良いスパイスになっています。そして、驚愕すべきは、肝心の叶に事件の全容がもたらされていないことです。これを叶と特命課との「阿吽の呼吸」で、事件解決に持っていくところは、前作には無かった横山保朗脚本の良さであり、もしかするとご都合主義だと見られるかもしれません。が、終盤まで画面にくぎづけにさせたのは、紛れもなく天野利彦監督の腕だと思います。手に汗握る感がことかしこに出てきます。

ちょっと一言いえば、ラスト近くの前川の発言に?がついたり、あっさり数秒間の発言でいいのかというところもありますが、これは特捜隊、最前線ともに共通する時間の壁なのでしょう。

 

この2作品を見比べると、一般にいわれる

特捜隊=事件全体を描いた刑事ドラマ

最前線=事件の中の個人を描いた刑事ドラマ

の評価を改めるべきでしょう。具体的な差の定義づけは難しいものの、2作品とも、各刑事のキャラに合わせた脚本づくりが基本にあって、それを監督がいかに味付けた演出をするか、という点は共通していると思います。

そして、個人的には前作、当作とも佳作以上の出来で、傑作と評しても良いと感じました。ただ、好き嫌いでいうと、昭和の匂いが漂い、スーパースターとして三船主任を描き、最後にニヤリとする悪ふざけながらも謎めいた場面を設けた前作のほうがいいかなあ。

 

ちなみに、「特捜最前線 209」で検索すると、当作について、いろいろ語られていますので、(かなりネタバレになっていますが)参考になると思います。

しかし、前作で三船主任を演じた青木義朗、当作で叶刑事を演じた夏夕介も、もう故人となられているのが今でも信じられません。この2作を見る限り、どこかの刑事ドラマで登場しても不思議ではないような・・・、それを感じさせる作品でした。