蒸し暑い熱帯夜
ねつけないのでのろのろとマンションから抜け出、深夜の街を徘徊する
ほど近くには鬱蒼とした木々が生い茂る深い緑の公園があり、いかにも人気がなさそう
引き寄せられるように暗黒がひろがる公園の入り口に肢がむかう
暗黒は暗黒に引き寄せられるということか
入り口を入りしばらく歩くと小川流れる静謐な水場がある
といってもいまは暗黒だが
ズックとソックスを脱ぎ、そのせせらぎに肢をつける
ひんやりとした都会の生臭い水の感触と、得体の知れない生物の蠢きが伝わってくる
水底にきらりとひかる破片がみえる
ガラス片だ
そっと拾い上げ手首につーーとすべらせる
ぴっと切れ目が入り一拍おいてから深紅、というよりどす黒くよどんだ生命の迸りがあふれ出る
苦笑がもれる
僕の体にはこんなにも薄汚れた迸りしかめぐっていない
これをすべて排出したとしても綺麗な血液が生産されることはないだろう
このどす黒さは僕の精神の色
よどんだドブ川の、死んだ魚の目のようにぶよぶよした物体は僕の血肉
再生産されることはない僕の肉体と精神
この世に存在してはいけない精神
いつのまにか迸りは凝固しており、おそらく長い時間がたったことがわかる
「そんなんじゃ死ねやしないよ」
ふいに背後で声がする
「そんな浅い切り方じゃ死ねやしないといっているんだ」
闇のなかにおぼろげながら浮かんでは消える人影はどうやら老婆のようだ
「おまえさんみたいなのがここにはよく現れる」
心なしか風がでてきたようだ
夏の夜にふさわしい、微塵も清涼さをかんじない風
よどみきった泥のような風
「思いつめて手首なんか切ったってどうせ死ねやしないんだから」
僕はなんだか煩わしくなってきた
「血肉は再生産されるけど精神は再生産されない。」
僕の言葉に老婆は口ごもったようだった
気配がそう伝えている
「僕の体にはよどんだどすぐろい暗黒のような血がながれている。精神は闇のように真っ暗だ。この公園には漆黒の闇が広がっているが空気は綺麗だ。僕の存在はこの世のものじゃないんだ。」
老婆はあっけに取られたようになにも言わない
僕はその気配を感じ取ると安心したように体を傾けた
ざぶんと大きな音がしてせせらぎのなかに汚れきったからだが沈む
遠くで老婆の声が聞こえたような気がしたが関係ない
いや、あれは蝙蝠たちの雑談だったのかもしれない
きっと明けがたに帰る塒の相談でもしているんだ
暗黒へと通ずる道へ
僕の精神があるべき場所へ




