遺影用の写真を届けに行って、やっと一通り終わったと一息ついた。

 なので少し義父と話をしていたら

「もうオレ、この家に住めんわ」

 と言い出した。

 まぁ感傷的になるのは仕方がないだろう。
 一応どういう理由でかを尋ねると、倒れているのを発見したのはもちろん義父で、その現場を見るとその時の事を思い出すのと、それ以上にこの家には母との思い出が多過ぎると言うのだ。

 意外だった。今回こんなにも母の事で動揺している義父だが、普段はほとんど別々の部屋で別行動ばかりで暮らしていたのだ。
 食事時間だってほぼ別々。夜ご飯だけは母が作って出していたようだが後は朝食も昼食も義父が自分で作って食べていたぐらいなのだ。

 それでも思い出が多過ぎると。

 義父はメンタルが弱い。
 昔、焼身自殺をした義父の母同様、義父も思いつめたら何をするか分からないところがたまに見受けられる。

 これはいけないなと思い、私は夫に

「一先ず、1ヶ月間ほど埼玉に連れて行って落ち着かせたいんだけど」良いかというのを尋ねたというかお願いした。

 そうしたら仕事中にも関わらず、即座に電話をくれてそれを快く了承してくれた。

 ありがたかった。これ以上、思いつめない前にと義父にも
「1ヶ月ほどうちにくればいいから、タクヤくん(夫のことを親類にはこう言っている)が帰る日曜日に一緒に帰ろう」
 と話した。

 義父には仕事があるが、前に私がガンで手術や入院をした際にも私の看病等で1ヶ月弱、埼玉にやってきた事があり、その時に仕事を難なく休めたので今回も大丈夫だろうと私は思ったのだ。

 義父もすんなり、そうすると返事した。

 この後、亡くなった後の各種手続きがあるだろうから本来ならば遠くに行くのは非効率だろう。
 けれど今はそんな事を言っていられない。
 まずは義父を落ち着かせるのが優先だと思った。


 そういえば病院の霊安室であのツンツン看護師さんから

「この書類を持つ人はご遺体から離れないで一緒に移動してくださいね」
 と言っていた書類があった。

 確か死亡診断書だったと思う。

 その死亡診断書はすぐに葬儀社の人が受け取り、火葬手続きに使われたらしい。
 この書類はこれかの色々な手続きで使う場合があるかもしれないので、ちゃんとコピーをとてそのコピーを返してもらわないといけない。

 ちなみに原本は役所に提出する。
 提出には7日間の猶予があるらしいのだけど、この死亡診断書を提出しないと火葬許可が下りないので7日も待たないものだろう。

 引っ越しや出生届や婚姻届けのように、自分たちで役所に提出するものかと思っていたら、火葬の手配の関係上、葬儀社の人がやってくれるようだった。
 義父の唯一の希望は、たくさんの花を入れてあげたいという事だった。
 生前母は花が大好きで、実家の庭はガーデニング雑誌に出てきてもおかしくないぐらい、季節によって色とりどりの花が咲いている。
 それを晩年は義父と二人で世話をしてた。

 スーパーに買い物に行くと、おかずを買うのを一品我慢してでも花を買いたがるとよく義父が話していた。

 だから棺には埋め尽くすように花を入れてあげたいと。

 そうしたら担当者が四カゴ用意しますね。それで大体一杯になると思いますからと話した。

 それでいいの?うちの庭で育てた花をいれてあげなくていいの?と私が思っていたら注意事項として担当者が

「お花の持ち込みはご遠慮願っているので、こちらで用意したものになりますがご了承下さいね」

 と言った。
 ああ、あれか、『カラオケボックスとかで食べ物の持ち込みを禁止する』アレみたいなものかと想像し、まぁ仕方ないかと納得した。


 式という式はしないが、火葬場へ向かう前に葬儀社に来て一通りのお別れを済ませるのが明日の12時30分という事になった。
 そのために11時までに来てくださいね、と言われる。

 亡くなった人は、法律で24時間は火葬出来ない事になっている。
 そのためその時間が、これから考えて最短になるのだった。

 後、手続きには印鑑が必要だというが、そんなものいつもいつも持ち歩いているわけでは無いのでこれもこの後、取りに戻って持ってこないといけない。


 今まで話し合ったところで、総合計がいくらになるか出してもらったところ23万だと言う。
 うおい!予算オーバーだよ。

 義父はそれで良いと言う。
 まぁ義父が良いというならいいか。

 これで一通りの打ち合わせは終わったので、この後は急いで帰って写真と印鑑を持ってきて、お金も用意しておかなければいけない。

 やはり私たちは足がないので、タクシーで葬儀社から帰った。


 その後遺影にする写真を探すために、アルバムを探る。

 意外に『顔のサイズは親指大以上』をクリアするものが少ない。
 そして晩年の写真がとても少ない。
 旅行にでも行く生活をしたのなら多少はあるだろうが、日々の生活に追われていたのだから何にも無いのに写真を撮るなんて無かったのかもしれない。

 その中からもう15年以上前になるものだが、まぁ写りが良さそうだなと思える写真を見つける。

 その写真はピースサインをしていたが、ネットで調べるとピースサインをしていても遺影として問題無いそうで、気になるならば消してくれる加工もしてくれるはずだとあった。

 ならば問題無いなと、その写真に決めたのだった。
 ここで待たされている間に、義父には私が考えている送り方とそれには他社との相場からして大体20万円前後ぐらいはかかるだろう事を話してあった。

 なので先ほど、義父が「お金の心配はいい」というような事を言ったという事は20万円は用意出来るという事なのだろう。

 これから担当者に交渉するにあたって、まずは最低ラインを提示してもらってそこからプラスしていくやり方にしないと、と思う。

 初めから「20万ぐらいで出来るものを」なんて言ったら、オプションと言って色々追加されて気がついたら50万ぐらいになってました、なんて事になったら大変だ。

 しかも先ほど義父は担当者のいる前で「お金の心配はいい」というような事を言ったので、担当者は「このおっさん、意外に金もってんじゃね?」と思ったかもしれない。


 通夜や告別式をしないで送りたい事。

 特に信心深く信仰している宗教があるわけでは無いので、宗教的こだわりや送り方の希望は無い事。

 とはいえ、お骨はしっかり受け取りたい事。

 母はこのまま、連れて帰らずに送るまでここに眠らせておきたい事。

 をまずは簡易的に話した。

 私も今回色々調べる前は、通夜はまだしも告別式(いわゆるお葬式のメインっぽいやつ)をしないで送れる方法があるとは知らなかった。

 知ったからこそ、こういう交渉が出来た。


 ここの葬儀社とは火葬式についての話し合いはまだしていなかったが、やはりそれっぽい事が出来るらしい。

 通夜をしないので、夜はここに泊まることは出来ないらしい。
 それで私たちは構わない。

 お坊さんをお願いしないので、お布施代は発生しない。

 母の遺体も、家に連れてかえるより葬儀社に置いたままの方がお金が発生しないとの事だった。

 お骨も骨壷のランクがあるらしい。
 実家は持ち家で敷地は広いが、あまり大きなサイズだとそれを目にするたびにギョッとなると思ったらしく義父は小さいものを希望した。

 ここで本気か冗談か、義父が
「後から散骨でもしてやればいい」
 と言うと担当者が

「ああ、それは出来ません。一応法律で散骨はしてはいけない事になっているんです」

 と話した。そうだったのね、なんかテレビとかで見たような気がしたけどダメなんだ、と知れた。

 戒名が書かれる位牌も無し。
 だけど遺影は作る事にした。

 値段は2万強と、それなりにかかるがそれも無しとなるとあまりに寂しいだろう。
 S兄ちゃんの場合は遺影が無くて、『おおかみこどもの雨と雪』のお父さんのように免許証遺影になっているのだ。

 母は免許も無いので遺影を作らないと、それすらも無い事になる。
 写真はデータでもスナップ写真でもよくて、顔の大きさは親指大ぐらいあれば大丈夫らしい。
 それをこの後帰って探して、2時間後以内ぐらいには持ってこないといけない。
 葬儀社に着くと、しばらくの間待たされた。
 何だか従業員人数が少ないのか、お茶の一杯も持ってこない。

 周りを他の従業員が通る事もなく、私と義父はつい遠慮なく文句を言い合っても平気なほど誰もいなかった。

 それでもこの葬儀社は私の実家のある市では1〜2ぐらいに有名なところなのだ。

 やっと落ち着いたからか、義父も葬儀に関する話をやっとしだした。

「一番最低限のでいい」

 と言う。それだけでは義父の具体的な希望は分からないので、質問していく。
 こういう話を本当は昨日にはしたかったのだが、もう助からないと言われていたにも関わらず義父としてはまだ亡くなって無い時に、そんな話ししたく無いと耳を塞いでいたのだった。

 小さなお葬式というと、最近耳馴染みのある『家族葬』というのが思い浮かぶ。
 けれどこれに関しては、夫のお父さんの時にその『家族葬』を体験したが、それは今回私がしようとしているものより、ずっと豪華なものだった。

 家族葬は身内だけで通夜、告別式等を行う規模の小さなものなだけで、ちゃんと『お葬式』なのだ。
 そのため大抵の会社で40万円ぐらいから100万弱ぐらいはかかる。

 私が今回考えているのは、それよりも簡素なものだ。

 ネットで調べた時には、火葬だけをするというものもあった。

 多分S兄ちゃんの時はそれだったんじゃないかと思う。

 毒親としての母に長く苦しんだ事もあり、私には母に色々してあげたいという感情は欠如していた。

 とはいえ、無縁仏にはしたくなかった。
 娘としての想いは無感情かもしれないが、人としての情はある。

 そして義父が思い残しをする事が無い程度の事はしたいと考えた。

 それには家族葬よりは簡素だが、火葬式の最低基準のものよりは付属をつけたものをやりたいと義父に伝え、義父もそれでいいと話し合っていたらやっと担当者がやってきた。

 電話で受付してくれた人に、火葬式に近いものを希望している事は伝えてあったのでこの担当者にも、それぐらいの事は伝わっていた。
 後は細かく詰めていかなければいけない。

 その前に肝心の費用に関して、分割払いもしくはクレジットカードを使えるかを尋ねた。

 昨日各社を調べていた時は、出来ると書いていたところもあったし「普通出来るだろう」と思っていた。ところが担当者の答えは

「出来ません」

 それどころか

「明日のお式の前にすぐに現金でお支払い頂きます」

 と言う。ちょっと待ってよ今、金曜日のお昼だよ。しかも我が家に一括でうん十万円なんてお金を現金で払うお金なんて無いよ。

 うちは一番安いであろう基準の式を希望しているけど、それでも多分20万ぐらいはかかるだろう。
 一般的には何百万、家族葬だって100万弱かかる場合だってあるのにそれをいきなり、明日には現金で支払えなんて、皆さん出来てるの?

 とはいえ、亡くなった母をここから他の葬儀社に運ぶなんて出来ない。
 他社との交渉する時間も、もうさすがに今更なのだ。

 困ったなぁと思っていたら、義父が

「ええ!(岐阜弁で良いという意味)、金はいい(なんとか出来る)」

 と言う。私はそれを聞いて一瞬逡巡したものの、義父が本当にあてがあるのだなと思いコトを進める事にした。

葬儀社の人は中々こなかった。

 いつくるかとヤキモキしながら、私たちは母と一緒に霊安室に行った。


 その霊安室までは、さっきの感じ悪っ!の看護師さんが連れてきてくれたんだけど義父曰く


「鬼の目にも涙というやつか?なんかさっきの看護師、少し泣いてるようにも見えたぞ」


 と言う。あ、そう。と私はもうどうでもいいと思っていた。

 それよりも今後、葬儀社の人が来てもし気に入らなかったらチェンジ(その葬儀社を断って別の葬儀社を呼ぶ)は出来るのだろうかとか、話し合いだけにくるのかな?でも遺体を運ぶ車だっているよね?


 などを考えていた。

 それにその葬儀社の人のところにするとして、私たちはどう移動するかも考えなければいけない。


 私と義父の二人も乗れるのだろうか、どっちかしか乗れなかったら義父に乗ってもらって、私はタクシーかな。

 でもタクシーで、かなりかかる距離だよね。と考えていたら案外早く葬儀社の人がやってきた。


 さて話し合いだ、と思ったら当たり前のように母を車に乗せて葬儀社に向かうと言う。

 詳しい話は葬儀社についてからしましょうと。


『ああ、これはしてやられたな。人質みたいなものじゃないか』


 とは思ったけれど、私も義父も二人とも車に乗れると言うし、もうここでゴチャゴチャやるのもなと観念して葬儀社の人に従った。



 みんなこういう時、どうするものなんだろう?

 どうするのが正解なのだろう?


 私は母が亡くなる前に、ネットや電話で各葬儀社を比較しながら調べたにも関わらず、甘かったのだろう、この状態だ。


 普通もっと、身内が亡くなったらこんなに早く葬儀社の手配どころでは無いのでは?

 どこにするかの選択だって、テレビCMや知り合いがやった葬儀社や、どこかで見かける看板などの情報だけを頼りに、手配するしか無いのではないだろうか。


 だからだろう。比較されて他にいかれないように、詳しい話をギリギリまでしなかったり、でも入り口である受付対応は、やけに親切そうだったり。


 そういえば、サイトで色々見ている時に見積もり依頼をしようとしたある会社の質問欄に『他社でも見積もりしていますか?』なんてのがあった。


 他社と比較している家は、ちょっと裏で安くなるとかあるのだろうか。


 足元を見られやすい状況だからこそ、しっかりしないといけないんだろうな。


 オプションだと言っては、何かと追加料金を取られるのが普通らしく、宣伝文句に


「当社は一切の追加料金をいただきません」


 などと書いてある会社もあった。


 親の残したお金がたくさんある家なら『こんな時だからお金は気にしない』と思って事を進められるだろう。


 けれど私の場合のように、親にお金が無い場合は子どもである私がこういったお金を準備しないといけないかもしれないのだ。しかも私は一人っ子。

こういう時の責任とお金も私一人にかかってくるのだ。

 シビアにならざるおえない。