葬儀社に着くと、しばらくの間待たされた。
何だか従業員人数が少ないのか、お茶の一杯も持ってこない。
周りを他の従業員が通る事もなく、私と義父はつい遠慮なく文句を言い合っても平気なほど誰もいなかった。
それでもこの葬儀社は私の実家のある市では1〜2ぐらいに有名なところなのだ。
やっと落ち着いたからか、義父も葬儀に関する話をやっとしだした。
「一番最低限のでいい」
と言う。それだけでは義父の具体的な希望は分からないので、質問していく。
こういう話を本当は昨日にはしたかったのだが、もう助からないと言われていたにも関わらず義父としてはまだ亡くなって無い時に、そんな話ししたく無いと耳を塞いでいたのだった。
小さなお葬式というと、最近耳馴染みのある『家族葬』というのが思い浮かぶ。
けれどこれに関しては、夫のお父さんの時にその『家族葬』を体験したが、それは今回私がしようとしているものより、ずっと豪華なものだった。
家族葬は身内だけで通夜、告別式等を行う規模の小さなものなだけで、ちゃんと『お葬式』なのだ。
そのため大抵の会社で40万円ぐらいから100万弱ぐらいはかかる。
私が今回考えているのは、それよりも簡素なものだ。
ネットで調べた時には、火葬だけをするというものもあった。
多分S兄ちゃんの時はそれだったんじゃないかと思う。
毒親としての母に長く苦しんだ事もあり、私には母に色々してあげたいという感情は欠如していた。
とはいえ、無縁仏にはしたくなかった。
娘としての想いは無感情かもしれないが、人としての情はある。
そして義父が思い残しをする事が無い程度の事はしたいと考えた。
それには家族葬よりは簡素だが、火葬式の最低基準のものよりは付属をつけたものをやりたいと義父に伝え、義父もそれでいいと話し合っていたらやっと担当者がやってきた。
電話で受付してくれた人に、火葬式に近いものを希望している事は伝えてあったのでこの担当者にも、それぐらいの事は伝わっていた。
後は細かく詰めていかなければいけない。
その前に肝心の費用に関して、分割払いもしくはクレジットカードを使えるかを尋ねた。
昨日各社を調べていた時は、出来ると書いていたところもあったし「普通出来るだろう」と思っていた。ところが担当者の答えは
「出来ません」
それどころか
「明日のお式の前にすぐに現金でお支払い頂きます」
と言う。ちょっと待ってよ今、金曜日のお昼だよ。しかも我が家に一括でうん十万円なんてお金を現金で払うお金なんて無いよ。
うちは一番安いであろう基準の式を希望しているけど、それでも多分20万ぐらいはかかるだろう。
一般的には何百万、家族葬だって100万弱かかる場合だってあるのにそれをいきなり、明日には現金で支払えなんて、皆さん出来てるの?
とはいえ、亡くなった母をここから他の葬儀社に運ぶなんて出来ない。
他社との交渉する時間も、もうさすがに今更なのだ。
困ったなぁと思っていたら、義父が
「ええ!(岐阜弁で良いという意味)、金はいい(なんとか出来る)」
と言う。私はそれを聞いて一瞬逡巡したものの、義父が本当にあてがあるのだなと思いコトを進める事にした。