2022 ISU総会 PCS項目削減案の議論記録置き場その① | siennaのブログ 〜羽生君応援ブログ〜

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羽生結弦選手の現役時代をリアルタイムで体験できる幸運に心から感謝しつつ、彼のスケートのここが好きあそこが好きと書き連ね、ついでにフィギュアにも詳しくなろうと頑張る欧州住まいのブログ主です。

今回は項目数削減で論議を醸しているPCS改革について、ISU総会@プーケットのストリーミング視聴で得た情報を自分基準で整理し、可能な限り正確な翻訳に少々解説をプラスし、フラットな記事として残しておきます。長時間にわたる英語の国際会議を視聴するのは疲れるもの。いつでもどなたでも、凖一次資料として参考にしてもらえる客観的な日本語の記録になれば、と思います。非常に忘れっぽい自分用というのがまず第一ですけど(笑)。これまでSNSや報道で全く話題になっていない興味深い発言(赤字部分)もありますが、主に「なぜ変えなければならないのか」「提案に至るプロセスはどんなものだったのか」「各国連盟代表の意見は」「他にも検討されている改革はあるのか」「旧項目はどのように新項目に整理・反映されたのか」等の視点でまとめました。

 

 

 

まず、現行のPCS評価法は変わらなければいけない。この前提はほとんどの関係者間でシェアされている、というのが会議から受けた印象です。導入から約20年(!)、技術委員会は、机上ではきめ細やかで優れているはずの評価法が、試合の場という実地では思うように機能していない、という結論に達したようです。

 

「5項目27評価基準を選手演技後の短時間で正確に判断することはあまりに難しすぎる」

「多くの評価基準が重複しているため、項目間の点数に違いが表れにくい」

 

ビアンケッティ・シングル/ペア技術委員長によると、上記の点を問題視した3つの技術委員会(シングル・ペア、アイスダンス、シンクロ)が、特にPCSに見識の深いジャッジらが活動するコンポーネンツ・モデレーターグループという既存のグループに協力を依頼したのがことの始まり。同グループによる2年越しの議論・検討の結果、技術委員会に提出されたのが今回承認された案です(項目削減がロシア連盟案だったという情報を見ましたが、その根拠がワーキンググループのリーダーとされたのがロシア人ジャッジだったという情報のみに基づくものであれば、総会で説明された経緯からは、イニシアチブはあくまで技術委員会が握り、改革の基本路線もその意向に沿ったものと理解すべきでしょう)。

 

続いてワーキングループを代表して草案のメインオーサーである伊・米ジャッジ2名による説明が行われます。

 

その中身を整理すると:

 

・批評基準の単純化・明確化、および重複・曖昧さ(知的関わり等の文言)排除による採点プロセスの改善

 

・上記はスケーティングやプログラムの単純化にはつながらない(から安心してくれ)

 

・人間はコンピュータではないので処理すべき情報が多すぎると意識ではなく無意識が判断を行ってしまう(訳注:いわゆるスケーターのランキング/評判に寄りかかったレピュテーションジャッジングを示唆しているかと)

 

・最終的にまとめ上げられたのが、フィギュアスケート特有の3つの側面「コレオグラフィー(コンポジション):プログラムデザインは音楽の構造に即しているか」「アーティスティック(プレゼンテーション):演技は音楽とコネクトしているか」「テクニカル(スケーティングスキル):基盤となるスケーティングや動作の技術はどう実施されているか」をフィーチャーした3項目

 

以上の説明があった後、出席者に対し同案に対する意見・コメントが募られ、複数の出席者が発言しました(逐語ではなく大意です)。

 

オランダ:「本総会における上位の目的はPCS採点の改善であり、PCS項目削減はその一部。項目削減に加え、ジャッジ分割も同目的に寄与することを指摘したい。さらに、OAC(仮訳:審判評価委員会)による項目毎の採点評価も、ジャッジの自由な裁量を制限している。PCS3項目案を支持するもう一つの理由として、現在、全項目ではなく部分的にしかPCSを評価していないノービスレベルにも上のレベルと同じ範囲で評価することが可能になり、選手の育成上好ましい」(訳注:オランダは、OACによるPCS採点評価を項目毎ではなく全項目の総合平均点で行うことを提案している)

 

フィンランド:「自分は15年以上コンポーネンツ・モデレーターグループで活動してきた。行動を起こす必要性に疑いはない。だが問題は、多いとはいえ項目の数ではない。その点オランダのジャッジ分割案はジャッジの負担軽減という意味で興味深い。ジャッジがPCSを使って選手を特定の位置に付けることが避けられる。1人のジャッジがGOEとPCSの両方を採点することは、そうした位置付けを可能にする。自分はレフェリーとして参加したさまざまな大会で、そういった疑いを報告せざるを得なかった。理由はジャッジの知識不足やシステムではなく、採点幅の許容範囲(コリドー)から逸脱することへの恐れにある。現行システムはフィードバックも細やかで素晴らしい。項目数削減は妥協採点をもたらす。特にプレゼンテーションが問題。音楽表現と演技力を区別できなくなる。(採点根拠を)問われたとしてもどのような説明も可能になってしまう。(技術委員会が言及した)コリドーの1年間の評価停止を支持する。これがジャッジの最大の恐怖の的だから」(訳注:スコア平均から上下に一定のポイント以上離れているとコリドーを外れた逸脱採点としてOACにマークされる。件数が重なると警告や処分の対象になる)

 

ノルウェー:「評価基準の整理についてワーキンググループに感謝する。スポーツとアートの両方を兼ね備えた競技としてPCSに価値があることが大事。PCS係数アップが提案されないのに驚いている。係数を上げなければ結果への実質的インパクトは無い」(壇上からコメント:ラケルニク「今回の係数変更は項目数減少に比例するに止まる。(TESとのバランスを是正するための)係数変更を考慮するのは次の段階」。ビアンケッティ「明日発表するが係数変更は非常に複雑でデリケートな問題。今回は、混乱を避けるため重大案件の提案は項目数削減に絞った。今後、項目間でウエイトを変えることも考えている(!)」)

 

英国:「我々は変化にオープン。変化は時に否応なく訪れる。だがシステムが変わっても結局は運営する人々次第。新しいシステムに対応するためのジャッジの教育をどう考えているのか」(壇上から:草案作成者「10時間の動画を作成した。音楽に関して2本、導入部が1本、そして各コンポーネントにつき1本。動画はそれぞれ2時間(訳注:計6本なら12時間になるんじゃ?)。120の具体例を含み、各レベルに即したコメント付き。シングル・ペア・アイスダンス・シンクロの全4カテゴリーを取り上げている。提案が承認されれば速やかにISUウェブサイトにアップし、誰もが見られるようにしたい(外部にも公開してね!)」

 

日本:「我々が得たフィードバックによると、コーチやスケーターは成長のために5項目の細やかな評価を希望、ファンからはアマチュアにも理解できるような新コンポーネンツについての情報を与えられておらず、採点基準が分かりにくいため競技を十分に楽しめない、改革は歓迎しないとの指摘があった。評価基準が多く正確な判定ができないとされるが、これまでベテランジャッジが採点する主要大会では、逸脱採点はGOEでみられ、PCSではほぼ無い。ジャッジ教育は成功していると考える」

 

米国:「新評価法は高いポテンシャルがあると考えるが、テスト抜きである点に懸念を抱く。大きなインパクトを持つ改革にもかかわらず、期待した方向に変化が起きるという確証が無い。まずは大会の場で並行してテストを行うことを提案する」(壇上から:ラケルニク「これは改革のための改革ではない。自分は現行システムの構築に当たった当事者であり20年にわたりこのシステム下で働いてきたが、その間常にPCS採点は問題含みだった。アイデアは良かったが、詰め込まれ過ぎているせいで現実には機能していない。例えばジャッジ分割案とは異なり、本件の場合テストの必要性は疑問。ジャッジのやることに変わりはなく、方法が改善されるだけだからだ」

 

シングル/ペア技術委員会コーチ代表パトリック・マイヤー(スイス):「5項目はより正確であるという意見を今回多数聞いたが、セオリーではそうかもしれないが、コーチとしての自分の経験からは重複点が多いため5項目が横並びとなり、適切なフィードバックになっていない。こういうことならばセカンドマーク一つの旧採点に戻ればと思ってしまう。何項目であろうが、重複なくクリアに定義されていなければ、成長するための正しいフィードバックを得ることはできない」

 

所属不明の女性発言者:「このスポーツはオーディエンスに理解されにくいのがネックであり、採点の客観化が大事。項目削減は分かりやすさへの鍵。動議に賛成する」

 

スイス:「ワーキンググループの仕事を評価する。適切なPCS評価を妨げる要因に、フィンランドの指摘と同じく恐怖心の干渉を付け加えたい。所属連盟からのプレッシャー、OAC評価、実名制で生じるソーシャルメディア上のトラブル(訳注:ジャッジへのヘイトですね)など。ジャッジ採点の完全な自由実現には、こうした点も考慮する必要がある」(壇上から:ビアンケッティ「そうしたプレッシャーは匿名制導入廃止(逆の意味になってたー!修正します。すみません)で生じた。今回は提案も無く匿名制再導入の検討はもちろんしない。匿名制の時代もPCS採点の質は良くなかったが、プレッシャーに関する意見には同意する。今後、何らかの形でジャッジの保護を考える可能性はある

 

壇上からの回答に、ほーという点がところどころありますね。このワークショップにおける各国代表の意見は以上です。「旧項目はどのように新項目に整理・反映されたのか」等、続きは次回。