映画で学ぼう! 中世英国史 | アルプスの谷 1641

アルプスの谷 1641

1641年、マレドという街で何が起こり、その事件に関係した人々が、その後、どのような運命を辿ったのか。-その記録

 


まずはこの記事をご覧ください。

 

ケイト・ミドルトンとウィリアム王子のロイヤル・ウェディング

 

の興奮さめやらぬ 2011年10月28日 のものです。

 

Marriage to Catholic no longer a bar to British royalty

 

英語なので解説させていただきますが、

 

英王室とカトリック教徒との結婚はこれまで禁止されていたけれども、カトリック

 

教徒が国王あるいは女王にならない限り、基本的には結婚の自由を認める。

  

という内容です。

 

 そもそも、こんな法律が現代まで生きていたことが驚きです。

 

 一体、英国とカトリックの間には何があったのでしょうか。
  
 映画を見ながら、その歴史を振り返ってみましょう。

 


「ブーリン家の姉妹」(2008)


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 国王ヘンリー8世の妾となったブーリン家の姉妹、アン・ブーリンとメア

 

リー・ブーリンの確執と悲劇を描く。現在のハリウッドを代表する二大女優、

 

ナタリー・ポートマンが姉アン・ブーリン、スカーレット・ヨハンセンが妹
 

メアリーを演じる。


(姉妹が逆になっているなど、史実を映画的に作り替えている部分がある)

 

 もともとヘンリー8世(1491-1547) は、宗教改革(1519~)を批判するよう

 

な忠実なカトリック教徒だった。が、アン・ブーリンは、先に妾となった妹

 

メアリを押しのけて国王の寵愛を勝ち取ったばかりか、王妃キャサリン・オ
 

ブ・アラゴンに代わって自分が王妃になろうとする。しかし、カトリック教

 

会がヘンリーの離婚を認めることはなかった。
 

 自分の思い通りにならないことに腹を立てたヘンリーは、英国国教会を設

 

立してカトリックから離脱、アン・ブーリンはついに英国王妃へと上り詰め
 

るが・・・。




「1000日のアン」(1969)


 日本では「不倫は文化だ」と言って物議を醸した人物がいたが、そんなの

 

ちっさいちっさい。こっちは不倫で世界を変えたといっても過言ではない、

 

アン・ブーリンの生涯を描く。
 

ジュヌヴィエーヴ・ビジョルド主演。

 

 英国国民の反感を買いながらも王妃となったアン・ブーリン。しかし、強

 

い男の世継ぎを望んだヘンリーの願いに応えることができず、国王の愛情も

 

ジェーン・シーモアに移っていった。最後には国王の不興を買い、近親相姦
 

や魔女の嫌疑を掛けられ、1536年5月19日、断頭台でその生涯を閉じる。


( この映画については、字幕はありませんが、Youtube で全編が見られる


 ようです。 Anne Of The Thousand Days (1969) 1/10 
 

 

「わが命つきるとも(A Man for All Seasons)」(1966)

 


 離婚を望むヘンリー8世とカトリック教会の仲介が可能だったのは、トマ

 

ス・モアただ一人だった。しかし、清廉の人にして、カトリックとしての信念

 

を貫くトマスは最後まで協力を拒み、反逆罪の嫌疑を掛けられ、1535年7月6日、
 

斬首刑に処せられる。

 

 アカデミー作品賞受賞作。この映画は、マッカーシーの赤狩り(形を変えた

 

魔女狩りだったと言える) がまだ記憶に新しい頃に公開された。この映画が描

 

く良心の問題は、当時のアメリカ人にとっての良心の問題でもあったというが、
 

今から見る価値があるかは、個人的には疑問だと思う。

 

 
 さて、ヘンリー8世とジェーン・シーモアの間には待望の男の子が生まれま

 

す。ヘンリーの死後、9才にして国王に即位したエドワード6世でしたが、強

 

い世継ぎというにはほど遠く、15才で早逝します(1553)。
 

 アン・ブーリンが生んだ子は女の子でしたが、ヘンリーの望んだ強い世継ぎ

 

という意味では、その願いに応えていたのはアンの方でした。
 

 アン・ブーリンの娘、彼女こそが・・・。

 


「エリザベス」(1998)


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 ケイト・ブランシェット主演。

 

 映画はエリザベスと、若き日の恋人ロバート・ダドリーの関係を軸に、普通の少女

 

が伝説の処女王となるまでを描く。ネタバレになるのであまり書かないが、こちらも


映画的に史実が変えられているので注意が必要。

 

( アン・ブーリンが離縁させた王妃キャサリン・オブ・アラゴンの娘、メアリ1世

 

は早逝したエドワード6世の後を継いで女王に即位する。メアリ1世は忠実なカトリッ

 

ク教徒で、英国国教会を含むプロテスタントに激しい迫害を加え、300人以上を処刑。

 

後にブラッディ・メアリ(血まみれメアリ)と呼ばれるようになる。

 

 余談だが、アン・ブーリンは、メアリの母キャサリン・オブ・アラゴンが死んだ時、祝宴

 

を張ったという。さらにメアリ1世を娘エリザベスの侍女にするという屈辱を味あわせ

 

ばかりか、王位継承で優先権のあるメアリ1世を暗殺しようとさえした。清々しいほどの

 

悪女ぶりである。

 

 メアリ1世がプロテスタントを嫌った理由は、宗教的な理由ではなく、自分や母親

 

を苦境に追い込んだ連中を許せなかったからと思われる。メアリがエリザベスを
 

憎み続けたのも当然ではあるが、不思議なことに殺そうとはしなかった。どんな

 

に憎くても、自分の妹であるという気持がそれを押しとどめたのであろうか。 )

 

 プロテスタントであったエリザベスも反逆罪で投獄の憂き目を見たが、メアリ1世

 

の死後、女王として即位する。しかし、カトリック勢力がプロテストの女王を

 

快く思うはずもなく、エリザベスを暗殺して、カトリックのスコットランド女王メアリー 

 

(ヘンリー8世の姉マーガレット・テューダーの孫、名前が同じで紛らわしいがメアリ1世

 

とは別人) を立てようとする。(北部諸侯の反乱 1569)

 

 度重なる外国からの干渉や、身内の裏切り・陰謀にぶち切れたエリザベスは、
 

「私は男と結婚しない。英国と結婚する!」と宣言。

 

 エリザベス処女王 ( The Virgin Queen ) の誕生までを描く。


 
 
「エリザベス:ゴールデン・エイジ」(2007)


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 驚くべきことに前作と8年の間がありながら、できる限り同じキャストを使用

 

して作られている。スペインの無敵艦隊を迎え討ち、自ら鎧に身を固めて、兵士

 

を鼓舞する女王が超かっこいい豪華絢爛な続編。

 

 プロテスタントにして庶子の出であるエリザベスを暗殺しようとする陰謀は

 

なおも続く。1586年のバビントン事件で、スコットランド女王メアリーが陰謀

 

に加担していたことが暴かれ、反逆罪で首を落とされる。
 

 カトリック勢力のスペインやフランスはメアリーこそが正当な王位継承者とみ

 

なしていたが、この事態を受けて、英国成敗に動きだし、スペインの無敵艦隊が
 

英国に迫る・・・。

 

 
 さて、ここで一つはっきりさせておきたいことがあります。

 

 (映画で言うように) エリザベス1世はプロテスタントであったのか? 

 

 という点です。

 

 英国国教会は先に書いた通り、ヘンリー8世が離婚したいがためだけに設立

 

されたものであって、プロテスタントの影響はあるものの、中身的にはカトリ

 

ックと大きく異なるものではありません。従って、エリザベス1世も、カトリ
 

ックでは無かったというだけで、プロテスタントであるとも言えない、という

 

のが本当の所だと思います。しかし、エリザベス1世の治世下では、新教徒の
 

信仰が保障され、英国で清教徒が急速に力を伸ばすことになりました。

 

 スペインの無敵艦隊を破ったエリザベス1世は、その後、イギリスに黄金時

 

代をもたらし、1603年、天寿を全うしました。

 

 エリザベス1世は結婚しなかったので、当然、子供がありません。後を継い


だのは、断頭台に消えたスコットランド女王メアリーの息子、ジェームズ1世
 

(1566 - 1625) でした。この国王は英国国教会以外の新旧教徒の両方を迫害す
 

るという、わけのわからないことをしています。

 

( この時、迫害された清教徒たちが 清教徒の国建設を目指し、メイフラワー号に


乗ってアメリカへと渡ります [1620] )

 

 ジェームズ1世の跡を継いだ息子のチャールズ1世は、旧教徒であるフラン

 

ス王アンリ4世の娘ヘンリエッタ・マリア・オブ・フランスと結婚、急速にカトリック


へと回帰した結果、ついに清教徒革命が勃発します。



「クロムウェル」(1970)



アレック・ギネスがチャールズ1世、リチャード・ハリスがオリバー・クロム

 

ウェルを演ずる歴史大作。前半では数千人のエキストラを使った豪快な合戦シ

 

ーンが見所。後半は、自分の国王の首をはねるに至るクロムウェルの苦悩を、

 
二大俳優の重厚な演技で見せる。あまり有名な映画ではないが、隠れた傑作
  
 

だと思う。

 


 清教徒革命により、チャールズ1世は処刑 (1649) され、以後、1660年の王政

   

復古まで、英国は国王のいない国となります。

 

 この後のことは、省略させていただきますが、清教徒革命の反動で王政が復

 

古(1660) して旧教に回帰、さらにその反動として名誉革命(1688)が起こります。

 

こうして 1701年「英国王室はカトリック教徒と結婚してはならない」という
 

王位継承法が制定され、以後、イギリスは永遠にローマ・カトリックとの決別

 

を果たしたのでした。