日時;2024年5月10日(金)20:00~
会場:上海交響楽団音楽庁からの配信
指揮:クリストフ・エッシェンバッハ
演奏:上海交響楽団
独奏;王雅倫
曲目
ドボルザーク:「謝肉祭」序曲 作品92
バルトーク:ピアノ協奏曲第3番 BB127
チャイコフスキー:交響曲第5番ホ短調 作品64
感想:
なかなか上海に戻れないため日本のオケの鑑賞が続いているが、先日N響を振ったエッシェンバッハ氏が上海交響楽団を振るコンサートが生配信(有料)されていたので、鑑賞した。
配信鑑賞自体は過去にないわけでもないが、しっかりフル尺の鑑賞は初めてである。
時間までメンバーが舞台上で練習するので騒がしく、いわゆるアメリカンスタイルらしいがこのオケもそれである。
マエストロが姿を現した時の足取りは先日より軽そうで、安心する。
1曲目はドヴォルザークの謝肉祭序曲で、音の運びはさすがマエストロという印象だが、ヘッドホン鑑賞なので隅々まで聞こえてしまう影響か、各楽器の雑さが少し気になる。
特にトランペットやピッコロなどの音の切り方や木管の音の切り出し方などが揃いきれない印象であった。
2曲目はバルトークのピアノコンチェルト第3番。
ソリストは王雅倫さん。
以前よりは少し大人びてきた印象はあるが、やはりスキップの少女のような足取りでの登場は変わらない。
さて演奏が始まると、軽いタッチの音で華やかな音が奏でられる。
スピードに対するテクニックは十分あり、詩的な謡い方は過去の中国のピアニストに比較しても十分な力を兼ね備えている印象だ。
ただバルトークの音楽の持つエッジの鋭さを表現するには至っておらず、そこはまだ物足りない。
第2楽章は晩年のバルトークの心情を映したかのような表現の楽章だが、ここはソリストが真骨頂を見せるが、会場収録のマイクバランスの問題なのかオケとのバランスがもう一つの印象だった。
第3楽章もスピーディさの面では鮮やかだったが、やはり鋭くなりきれない音楽がちょっともったいなかった印象である。
後半はチャイコの5番。
マエストロの登場を待つ時間にピコピコと携帯の着信がなるのは、上海らしく懐かしい。
やはり日本の会場よりは雑音が多い。
冒頭のファゴット・クラリネットのソロはまあまあの出来だったが、陰鬱の影のつけ方があと一歩というか、ピアニッシモの落ち方が極端で、これはマイクの性能の影響或いは通信信号の影響かもしれない。
またトロンボーンが少し弱く、もう少し存在感があっても良いのではないか?
ストリングの整え方はさすがで、中国のオケは後半のメインプログラムになると力を発揮する。
最近コロナ明けで復帰したのか、各パートに外国人の首席奏者が増えた気がしておりこれが水準を引き上げているのかもしれない。
そして楽章間の間を置かず第2楽章へ突入する。
ホルンの歌いが見事で、やはり欧米系の奏者である。
チェロのメロディが何となくイマイチで、これが配信鑑賞の影響なのか少しもどかしい。
木管の掛け合いでは音の溶け込み具合が今一歩であったがユニゾンでは大きく歌え、チャイコフスキーのメロディを描けていたように思う。
そのまま第3楽章に入るが、じっくりと聴くと何となく欧州の奏者の節回しでは無いかなという気もしてしまう。
そんなに訛っているわけでもないのだが、節の切り方が中国独特なものがあるのを感じてしまうのである。
そして第4楽章もその傾向は続き、ピチカート一つとってもフレーズ一つ一つの余韻を残すような歌い方ではなく、すぐ次のメロディに映ってしまうような感じで歌い方の基本が違う感じである。
これらはマエストロの指示なのか分からないが、リズムが食い気味に感じる部分がいくつかあったのである。
ただ、それを除けばフィナーレは全体としてスピーディかつまとまりのある演奏で、良質なチャイ5の印象で、素晴らしい演奏だった。
会場の熱気も非常に高かった様子で、こちらとしても配信鑑賞に関わらずいい体験をしたなという演奏だった。
また機会があれば挑戦しようと思う。