佐藤雄一指揮サンフォニア・ドラマティーク 第15回演奏会 | 上海鑑賞日記(主にクラシック)

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日時:2024年5月3日(金)14:00~

会場:ティアラこうとう大ホール

指揮:佐藤雄一

演奏:サンフォニア・ドラマティーク

独奏:古川貴子

曲目:

ベートーヴェン:序曲「レオノーレ」序曲第2番

ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第4番ト長調

ベートーヴェン:交響曲第6番ヘ長調「田園」

 

 

感想:

 以前聴いたアマチュアオケの関連団体から無料招待の案内が来ていたので、ちょっと足を延ばして江東区まで行ってきた。

 会場は「ティアラこうとう」で東京シティフィルなどが定期的に演奏会を行っているホール。

 そこまで残響の豊かな空間ではないが、コンサートの空間としては十分である。

 指揮者は佐藤雄一さんで、この方を軸に幾つかのオケが連なっているおかげで招待券が来たようだ。

 編成は50人程度の小編成で1stヴァイオリンは7人しかおらず、年齢層的にはあまりベテランはおらず30代あたりが中心であろうか?。

この日はオールベートーヴェンプログラム。

 まずはレオノーレ序曲の第2番。

 ゆっくりズーンと曲に入る。

 冒頭からホルンがやや不安定なのを感じる。

弦の厚みというか粘りはしっかり落ち着いたものを感じるが、1stの音が不安定であり、古楽器の音色を聴いているような印象だ。

オーボエ、フルートらの木管は崩れていなかったが、やや遠慮気味というか少し抑え気味。

 全体として、以前に聴いた別編成の時より音色が不安定で、ズンチャカな演奏になりがちであり、指揮者が苦労していたように映った。

 まあ唯一印象に残ったのはフィナーレ間際のトランペットのファンファーレであり、ここが救いであった。

 

 続いてピアノコンチェルトの第4番で私の好きな曲である。

ソリストは古川貴子さんで、芸大卒のピアニストで国際コンクールでの入賞歴も多数あるようだ。

この曲の出足はピアノソロからだが、会場の静寂を待ってゆったりとスタートする。

柔らかいタッチでキラキラした美しい音色を紡ぐ。

女流なのでそこまで力強さはないが、申し訳ないがこのオケの音色に比較して数段上のクラスの実力である。 

 まあ速いフレーズになるとやや粗さが感じられる面もあるが、ゆったりとしたメロディの部分の歌いは秀逸で、この部分だけでも聴きに来た甲斐があったと思えた。

 オケのサポートは相変わらずな状態で、オーボエなどは頑張っていたが、ホルンは迷い道に入ってしまったような状態で苦しそうであり、ピアノの独壇場だった。

 緩徐楽章に入ると、オケは低音のユニゾンになり粗が見えなくなる分、余計にピアノの音色の美しさが際立つようになる。

 最終楽章は再びオケのズンチャカ感が目立つようになり、やはりソリストの独壇場になってしまう。

 まあコンチェルトなので、ソリストが主役でよいのかもしれないが、オケにももうひと踏ん張りしてほしかったのが正直なところ。

 アンコールでソリストがベートーヴェンの小曲(6つのバガテルop12より第5番ト長調)が弾かれ、コンチェルト程のキレはなかったが、ソリストの実力を十分堪能させてもらった。

 

 後半は交響曲第6番「田園」。

 かなり速めのテンポで曲に入っていく。

 先ほどまでのオケの状態だと、ゆったり入ってもヨレヨレになるだけの印象であり、これは賢い設定かもしれない。

 まあ1stヴァイオリンの音色とホルンの不安定さは相変わらずだが、リズム感は良くこの曲の持つ生命力は十分引き出されている印象はあった。

 オーボエもこの曲に賭けていたのか、キレを取り戻す。

 クラリネットとフルートもこの曲になって元気になった印象であり、数か月前に聴いた田園に比較しても、完成度は低くとも音楽としては好感が持てる演奏である。

 

 第2楽章に入るとテンポが落ちるため、ややストリングスの粗が目立ってしまうが、ファゴットやオーボエのしっかりとした歌いが曲の情景の背骨を支え、クラリネットフルートが彩を添え、それなりに雰囲気が保たれた演奏になる。

 

 第3楽章はゆったりと入り、オーボエは安定した歌いを聴かせてくれるが、やはりホルンの不安定さが気になってしまい、気の毒なくらい苦しんでいる印象だった。

もちろん、曲を止めるわけには行かないので、そのままオーボエが引っ張りオケも走り続け、そこへホルンも何とか食らいついていた印象である。

指揮者も推進力で曲を前に進めたため、やはり少しズンチャカ感がでてしまったが、何とか走り続けられた。

 

 そのまま続く第4楽章の嵐の場面であるが、ここで驚いたのはティンパニの音だった。

 この曲では唯一この楽章でティンパニが使われるのだが、ティンパニストが使っていたマレット(ばち)が、フェルトの付いていない木が剝き出しのドラムスティックのような状態のものを使用していた。

 調べてみるとティンパニにフェルト無しのマレットを使うことは皆無ではないようだが、通常は頭にフェルトをつけたマレットが使われ音を柔らかくして演奏される。

 しかし、この日は指揮者の指示なのか、フェルト無しのマレットでティンパニを叩くものだから、スネアドラムを打ち抜くような鋭い音となり、まさに雷を意識した音が轟いていたのであった。

 田園は過去にも何度も聴いてきたがこのような音は初めての体験である。

 そのまま第5楽章へ入っていくが、ホルンの苦しみはここも収まらず、ヴァイオリンの不安定さと同様に目を瞑るしかなかった。

 その後のチェロのピチカートはもう少し強めに出しても良かったかなと思ったが、ズンチャカ感にならざるを得なかった演奏の中では過大な要求かもしれない。

まあ最後まで走り抜けたことが今回の一つの成果であり、次へ期待させて頂こうと思う。

 

ところで前回に続き再び余談だが、ここのホールは先日のNHKホールに比べトイレが少なく入り口も狭いことが気になった。

終演後にあっという間にトイレに行列が出来る程に便器の数が少なく、このホールのキャパ(1228人)に比べ少なすぎる印象である。

ここを含めどこのホールも稼働率を苦慮していると思うが、稼働率を上げたかったらまずトイレに着目する必要があるのではないだろうか。