日時:2024年03月17日(日)14:00~
会場:サントリーホール
指揮:小林研一郎
演奏:日本フィルハーモニー交響楽団
独奏:真鍋恵子(フルート)(日本フィル首席)
曲目
ドビュッシー:小組曲
モーツァルト:フルート協奏曲第2番
ベルリオーズ:幻想交響曲
感想:
「コバケンワールド」なるシリーズがあることを知り、一度は聴いておかなければと思っていたが、今回ようやくチケットを手に入れられたので訪れてきた。
かなりの人気のシリーズのようでなかなかチケットが手に入らなかったが、運よくリセールで見つけ、手に入れることが出来たことのである。
小林研一郎さん&日本フィルの組み合わせは実は私が初めて自分で買って訪れたコンサートで、その日のメインはマーラーの巨人で会場もこの日と同じサントリーホールだった。
当時の脂の乗り切っていたマエストロも、あれから30年以上が経過してかなりベテランの域に達し、演奏会の機会の一つ一つが貴重に感じられるお歳になられてしまった。
今回も手兵の日本フィルで、コンサートマスターは木野雅之さんで、就任時も知っている彼も懐かしい顔であり、いまだに関係が続いていることにも驚きもある。
このオケは創立以後、財政的基盤の弱さから何度も危機に見舞われているが、そこを支えてきたのがこのコバケンさんで、リスペクトとオケの財政的なサポートの意味もあって、このシリーズが設定されているようだ。
さて、一曲目はドビュッシーの小組曲。
出足から、非常に柔らかい音色で鳴り、このホールの音響特性もあって心地よく響く。
マエストロの動きに派手さはないが、丁寧な指揮振りで音楽を紡いでおり、楽し気な雰囲気がオケ全体から伝わって来た。
派手さがある訳ではないが、表情豊かな音楽はとても心地よく、コバケンさんのパッションは健在であったことがさらに嬉しい。
二曲目はこのオケの首席奏者の真鍋恵子さんをソリストに据えたモーツァルトのフルート協奏曲。
モーツァルト的なイメージそのもので、清々しいくらいな音色が響き渡る。
華やかさを前面に押し出すフルート奏者は多いが、オケメンバーらしく慎ましくというか、堅実な演奏で音楽を紡いでいく。
オケもソリストに寄り添うように少し控えめに音楽を支えている印象。
しっかりした技術に裏打ちされた演奏に安心させされる。
アンコール前にマエストロからソリストへの評価も
アンコールとしてバッハの無伴奏パルティータの
後半は幻想交響曲。
スタート前にマエストロからこの曲はとても難しいのでアンコールはないのでコメントが入る。
ややゆったりとしたフルートの調べから曲がスタートする。
全体的にテンポの穏やかな幻想交響曲であり、バランスもメロディも悪くないのだが、昔のようなアグレッシブな演奏ではなく、丁寧に積み上げた演奏という印象。
細部のフレージングやその絡みに至るまでマエストロにチューニングが行き届いている。
正直な欲を言えば、もっと前のめりな推進力が欲しかったのだが、敢えてそうしているのか、マエストロの動きもメロディも丁寧さを優先した演奏ぶりだった。
まあゴリゴリの幻想交響曲は若い指揮者の特権であり、今回のこれはこれで一つの正解の形なのかもしれない。
第2楽章のワルツも同様に丁寧な音作りで、細かい表情付けを感じる。
アグレッシブな演奏はそのエネルギーに引き込まれる感覚があるが、この日の演奏は等身大の音楽と向き合うような感覚があった。
マエストロとともに同じ歳を重ねた自分の歳をそこに感じたような気にもなる。
第3楽章も同様に、奏者に委ねても良いような表情付けがきちんと調和している。
ゆったりテンポは相変わらずで、マエストロのタクトも緩やかに振られる。
第4楽章の断頭台への行進はずんずん進むというより、ドシドシ踏みしめる感じで、やはり推進力より丁寧な音作りといった感じが強かった。
そして第5楽章では、やはりスピードで押し切るような演奏はせず、丁寧にメロディが進む。
教会の鐘塔に設置されているようなベルが印象的で、過去に聴いた幻想より曲に馴染んでいたような印象で、楽譜は同じタイミングの打点であるはずなのに不思議である。
そのまましっかりとした足取りでフィナーレへ辿り着く。
拍手の際、全てのパートの奏者を立たせるなど演奏直後の疲れも見せず、演奏前と変わらぬ足取りでステージ上を動き回るマエストロの姿が印象的だった。
またチケットが取れたら来るのでいつまでも良い演奏を聴かせて欲しいものである。