嫌な予感 | 沖野修也オフィシャルブログ Powered by Ameba

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Kyoto Jazz Massive 沖野修也 Official Blog

僕の愛車、

75年のBMW3.0 cs。

 

 

車好きに

羨ましがられる事があるけれど、

その度に、

引き取って欲しいとお願いする。

 

何故なら、

故障はするし、

クーラーはない

(おまけに、

ムカデが出る!)

から

と先日、

ブログに書いた。

 

 

 

 

故障のエピソードは

山ほどあるけれど、

そういえば、

Facebookに書きかけて

放ったらかしにしていた事件?

の顛末を

まとめる事にした。

 

それは、

友人達と夕食を楽しみ

彼らを家に

車で送り届けた後に起こった

ハプニングだった。

 

普段、

湖西道路という

無料の高速道路で

帰宅するのだが、

その日は

もう時間も遅かったので

そんなに

時間もかからないだろうと

京都から滋賀へ

山を越えて帰るルートを

選択した。

 

まだ

民家が立ち並ぶエリアで

鹿が

草を食んでいるのを見かけ、

妻が、

「今夜は運転気をつけてね」

と僕に言った。

 

そして、

「嫌な予感がする」

とも。

 

県境を越えて、

直進すると福井方面へ行く

T字の交差点を右折すると

途中(地名も途中なのだ)で、

鹿が

撥ねられて

動けないのを発見した。

 

道路に横たわる

若鹿。


上半身を起こし、

つぶらな瞳が

ヘッドライトに

照らされているが、

左足が

あり得ない角度で

折れ曲がっている。

 

早速、

妻の嫌な予感が的中。

 

僕が撥ねなかった事は

不幸中の幸いだった。

 

一旦、

車を止めるも、

ハザードを出して

停まっている車が

一台いたので、

おそらく

そのドライバーが

何処かに

連絡しているに違いないと思い

その場を離れた。

 

妻は

鹿をひどく心配していた。

真っ暗な山道を走りながら、

「戻って

動物病院に

運んだ方がいいかな?」

と僕。

 

いや、

流石に鹿を担いで

車内に入れるのは

現実的ではない。

 

その時だ!

路上で

ぐるぐると輪をかいて

飛び跳ねている野兎を

僕は

轢きそうになった。

 

急ブレーキで

車を道路の脇に止める。

僕は

エンジンをかけっ放しにして

車を降りた。

 

鹿ではなく

兎を

危うく

撥ねるところだった。

 

灯りがほとんどない

山道。

僕は、

携帯のライトを使って

兎を照らし出す。

まだ、

輪を描いて

飛び跳ねているではないか。

 

捕獲して

他の車に

撥ねられないように

安全な場所に

逃がしてやった方が

いいと思った時・・・。

 

突然、

エンジンから

けたたましい音が鳴り響く!

暗闇にこだまする

長く夜を切り裂くような

機械音。

愛車が出す

こんな音を

聴いた事がない。

 

妻が言っていた

嫌な予感とは

こっちの事だったのか!

 

車内に残っていた妻が

金切り声で

悲鳴を上げる。

窓を全開にしていたから、

エンジン音とは違うトーンで

僕の耳に届いた。


慌てて戻って、

車に乗り込み、

エンジンを切るも

その激しいエンジン音は

鳴り止まない。

 

絶対

爆発すると思って

二人で

車から逃げ出した・・・。

 

鍵は抜いたのに、

何故か

エンジンはかかったまま?

もの凄い音がしている。

 

車は

一台も通らない山の中で、

妻と二人ぼっち。

 

JAFに連絡するも、

自分が

何処にいるか判らない。

Google Mapで

位置情報を

確認して下さいと言われる。


その時、

一台の車が

後方からやって来た。

ハザードを点滅させていたから

若干見通しの

悪い場所だったけれど、

追突される恐れはなかった。

 

しかし!

兎がまだ

大きな輪を描きながら

路上を飛び跳ねている。

兎が轢かれる、

と思ったけれど、

彼?は間一髪、

難を逃れた。

 

僕は、

兎を捕まえようとする。


JAFのオペレーターが

異変を察したのか、

「お客様!お客様!」

と叫んでいる。

 

兎を追いかけ回すも

そのすばしっこさに

翻弄され、

捕まえられない。

このままだと

僕が

車にはねらる危険性も(汗)。

 

不覚にも、

携帯を落とす。

それでも、

僕は、

構わず、

兎を追いかけた。

 

再び、

一台の車が!

 

間一髪の所で

僕は

兎を捕まえた。

 

しかし、

携帯が・・・。

 

兎を

歩道の外側にあった

草むらに放す。

 

灯りがなくて

真っ暗な道路に携帯を

取りに戻る。

 

ハザードの

点滅する光で、

何とか携帯を見つけた。

カバーが外れ、

挟んであった名刺が

散乱している。

 

携帯が壊れていたら、

JAFと

連絡が取れなくなる・・・。

 

妻の嫌な予感が

又も的中したか?

 

ちなみに、

鍵は

僕の手の中にあるのに

まだエンジンは動き続け、

うなりを上げていた。


とどめを刺したのに、

まだ暴れ狂う

猛獣を眺めるかのように

妻は呆然と立ち尽くしている。

 

携帯を手にすると、

JAFの女性オペレーターが

まだ僕の名前を

呼び続けていた。

どうやら携帯は

無事だったようだ。

 

居場所を伝え、

レスキューの手配を

お願いする。

55分で到着するとの事。

 

その途端に

エンジンが

自然にストップし、

暗闇に、

静寂が訪れた。

 

妻に駆け寄って、

救助隊がやって来るからね

となだめた。


過去の車のトラブルでは

こういう時に

超不機嫌になっていたので

謝ると

彼女は

車のことなんか

全然気にしていなかった。

 

妻はまだ

怪我をした

鹿の事を心配していたのだ。

 

1台のパトカーが

前方からやって来るのが見えた。

 

反対車線で

パトカーが止まる。

ウィンドウが下りて、

お巡りさんに、

「こんな所に

車停めちゃ危ないよ!」

と叱られる。

 

僕は、

事情を説明した。

 

すると、

とたんに親身になり、

怪我はないか?

JAFを呼んだか?

と訊いてくれる。

 

「今から、

落下物の

対応に行くけれど

戻って来ますよ」

と言うではないか。

 

「ひょっとして

落下物って鹿ですか?」

と僕。

 

ちょっと

怪訝そうな顔をして、

「そうです。

今から

処置しないといけないのです」

とお巡りさん。

 

そして、

パトカーは去って行った。

 

我々の会話を

不安気に聴いていた妻が

「きっと

鹿を殺しに行くのよ」

と涙目になっている。

 

再び静寂に。

妻も僕も

黙り込んでしまった。

 

しばらくすると

パトカーが戻って来た。

僕は鹿の状況を尋ねた。

 

取り敢えず

道路の脇にある

草むらまで移動したと。

明日の朝には

市職員が来て処置しますと。

 

スコットランド人の妻に

処置

という言葉を英訳するか迷う...

 

鹿はどうなったの?

と訊く妻に、

「Staff from city center will come 

and check that deer tomorrow morning」

と伝えた。

 

その時!

お巡りさんが、

予想もしなかった言葉を

僕に投げかけた。

「ひょっとして、

鹿を撥ねませんでしたか?」

と。

え、僕に容疑が?

 

確かに

撥ねられた鹿の存在を

知っていたから

疑われても仕方ないけれど

止まっていた車が

撥ねたと思い込んでいた

僕には

ちょっと

信じられない言葉だった。

病院に連れて行こうとした僕が

疑われるとは。

 

もしそれが人だったら

間違いなく僕は

取り調べを

受けていただろう。

 

お巡りさんが、

懐中電灯を使って

僕の愛車の

バンパーをチェックする。

 

「いい車乗ってるね」

 

血痕がない事を確かめると

急にお巡りさんは

親しげに話しかけて来た。

 

僕は

いつものように応えた。

 

「良かったらお譲りしますよ」

と。

 

彼の相棒は

後方のカーブに立っていた。

 

お巡りさんは

我々は

夜中に

猛スピードで走る車もいるので

注意喚起するから

と言ってその場を離れ

相棒の方向にかった。

 

早くJAFが来るといいね

と言い残して。

 

満天の夜空に

星が散りばめられている。

 

虫の声一つしない

完璧な沈黙。

 

僕も妻も

一言も話さなかった。

 

まもなくすると

後方から

大型車が

近づいてくるのが音で判った。

 

JAFのレッカー車だ。

 

僕の愛車の前方に停め、

隊員が降りてくる。

 

「沖野さ〜ん」

 

と何だか親しげな声色。

 

本部からの連絡で

僕の名前を

知っているだろうけれど、

それにしても

僕の置かれた状況には

不釣り合いな

明るい調子に

僕はとまどった。

 

「前回の故障も

担当させてもらった者です!」

 

道理で。

 

「実は、

さっき

すれ違ったんですよ!」

 

え?

 

彼が言うには、

別の車を

滋賀県から搬送する途中に

僕の車を見かけたそうだ。

そして、

その僕から

搬送依頼が来て

驚いたと。

 

「事故だったんですか?」

と僕は訊いた。

 

「それが、

安曇川

(僕が途中で右折しなければ

通過する街の名前)で

鹿を撥ねた車が大破して

動かなくなったんですよ」

 

僕は、

それを妻に英語で説明した。

 

「で、鹿はどうなったの?」

再び

ショックを受ける妻に、

「鹿は無事で

山の中に走って

逃げて行ったらしいですよ」

JAFの隊員は答えてくれた。

 

道端で草を食む鹿。

上体を起こし横たわる鹿。

そして、

元気に逃げ去る鹿。

 

3匹の鹿が

僕の脳裏に現れた。

 

パトカーが

走り去って行く。

 

隊員が

僕の愛車に乗り込んで

異常の原因を確かめる。

 

渡した鍵を挿して

隊員が

エンジンをかけようとした時の事だ!

 

エンジン・ルームから

煙が吹き出した。

暗闇の中に

白い筋が立ち上って行く。

 

隊員が

慌てて車から降りて

ボンネットを開ける。

 

バッテリーを取り外し、

彼は僕にこう言った。

 

「電気系統がやられてますね。

原因はまだわかりませんが、

停車中のアクシデントで

まだ良かったですよ。

走行中なら

火を吹いていたかもしれません」

 

と。

 

妻が

目を丸くして、

僕の顔を見ている。

そして、

こう力説した。

 

「兎が教えてくれたのよ、

車を降りて、離れろと!!」

 

滋賀県に引っ越して

兎を見るなんて

初めての事だったし

(猿や鹿や雉は見るのに)、

確かに

兎が

輪を描いて跳ねるは

不思議な行動だった。

 

取り敢えず、

車を一晩

JAFの駐車場で

預かってもらうことにして

(翌朝一番で修理工場に搬送)、

隊員が

僕達を自宅まで

送ってくれる事になった。

 

ヘッドライトが

当たっている部分しか

見えない

暗い夜道を走り続けた。

 

レッカー車の助手席に座る

僕と妻。

 

「僕の車、

治りますかね?」

隊員に訊いた時、

僕は

鋭い視線を感じた。

 

妻が伏し目がちに

僕を一瞥したのだ。

 

僕は、

即座に

彼女が

僕の正気を疑っている事を

悟った。