森山威男さんのレコードを初めて買ったのは
いつの事だっただろうか?
10代前半でYMOにハマリ
そこから高中正義や増尾好秋を経て
日野皓正や渡辺貞夫に辿り着き、
20歳の時に
UKの雑誌"i-D"のジャズ・ファンク特集で
川崎燎やタイガー大越が
ロンドンのダンス・フロアーでは
ダンス・ミュージックとして
再生されていることを知った。
そして、
30年前、
やはりロンドンで、
コレクターにしてディーラーの
John Cooperのお宅にお邪魔した際に
『NATURE』を勧められ、
板橋文夫の名前を意識するようになる。
あれは確か、
神戸の三宮の高架下の
中古レコード屋だったと記憶している。
その板橋さんが参加した森山威男さんの
アルバムに出会ったのだ。
国内外のジャズ・レジェンドに
運良く
数多く
お会いする機会を得た僕だったけれど、
森山さんにお会いすることはなかった。
2020年に
再出発の話が湧き上がったTCJFは
コロナで立ち消え、
2021年の明日、
7年ぶりに
実現することになる。
2020年の国内の状況から
前半の絶望的な状況を予測することは
難しくなかった。
しかし、
海外の音楽シーン復活の情報を参照し、
僕は、
2021の後半に開催を決意したのだ。
5末に代官山のUNITで
レコード会社の英断により
DJ KAWASAKIのリリース・パーティーを
敢行したことがその布石だったし、
何よりも
実行委員からの熱い要望と
文化庁からの助成金が決定したことが大きかった。
問題は、
これまでのように
海外ミュージシャン&DJを
招聘することがほぼ不可能だったこと。
故に
僕は、
国内アーティストで
海外のオーディエンスが羨むライン・アップを
組み立てることをコンセプトにしたのだった。
松浦君、
須永さん、
NORIさん、
MURO君、
JIN君
KOCOちゃん、
SARASAに
MITSU君に
野崎君に
雅也に
瀧見さんに
KASHIさんに
黒田さんに
ヨシヒロと・・・
DJ陣は、
海外に呼ばれる実力者が勢揃い。
このメンツだけの、
フェス、海外でやれるような・・・。
ライブ・アクトを誰にするかを考えた時に
アルバムからのシングル・カットが決まっていた
DJ KAWASAKIは
自然な流れで候補に挙がった。
ヘッド・ライナーを誰にするか?
そこが重要だった。
日本に来れないオーディエンス、
日本のアーティストを自国に呼べないプロモーターが
指を咥えるであろう
TCJF的にベストなチョイスは誰かを
考えに考え抜いた。
KJSの類家君が
森山さんとの共演を
SNSにアップしていたことを思い出した僕は
森山さんをフィーチャーした
KJSのライブしかない!
と確信に至ったのだ。
僕が選び出した森山さんの代表曲は以下。
昨日、
森山さんとの1回目のリハーサルを行った。
エレベーターのドアが開いて現れた
森山さんは
僕の想像とは違って小柄で驚いた。
それでも黒の上下でボアつきの
バックスキンの
レザー・ジャンパーを着こなし、
その貫禄としぐさから漂う
大物感は半端ない。
日ハムの新庄に便乗し、
クラブ・シーンのビッグ・ボスなんて
嘯いている僕だけど・・・
森山さんは、
その風貌も存在も
日本ジャズ界の
リアル・ビッグ・ボスだ!!
リハーサルが始まるや否や
僕は、
その尋常ではないパワーに圧倒される。
あの小さな身体から
どうやってそのエネルギーが
大放出されるのだろうか?
音のシャワー?
いや、
音の滝!
しかも
大瀑布!!
シンバルに
バスドラに
スネアに
タムに
ハイハット。
鳴る音全てが明確で、
耳に、
ではなく
身体に響く大音量。
スタジオの
ドラム・ブースに
音の粒が充満する錯覚に陥った。
それを全身で浴びた僕は
さしずめ、
修行僧のような気持ちにもなる。
とにかく、
76歳とは思えない健在ぶり。
お話を伺えば、
コロナで演奏する機会がなくなり
何度も引退を考えたそうだ。
一度横になってしまうと
起き上がれない程
体力が落ちていたとも仰っていたのに
一念発起して
自宅スタジオにドラム・ブースを組み立て
トレーニングを開始されたらしい。
最初は全身に痛みを感じたそうだが、
叩き続ける内にその苦痛は消えて行ったと・・・。
そんな状態だったとは思えない位
迫力ある演奏に
僕は呆気に取られていた。
僕からのオファーが
森山さんの
ドラマーとしての本能を呼び起こす
きっかけの一つになったとしたら
身に余る光栄。
別記事でも書いたけれど、
若いドラマーが、
新しい時代のジャズの象徴のように語られる昨今。
レジェンドと
彼の過去の代表作を演奏して、
それはノスタルジックなのではないのか?
と思われる方がいるかもしれない。
しかし、
今回リハでお借りした
Studio Dedeのマジックと
KJSの面々の力量と
森山さんの溌剌とした生命力溢れる演奏が
一体となり、
ミラクルを起こす。
過去の音楽ではない。
完全に現在(いま)の音楽なのだ。
それは、
彼の代表曲の普遍性による所も小さくないが
やはり、
森山さんとメンバーが生み出す
グルーヴは、
それぞれの音楽体験のレイヤーを
ベースに紡ぎ出されているのだと思うし、
何よりも今を生きる人の
感情とコミュニケーションによって
我々のジャズは
成立しているからだ。
森山さんが、
エレベーターから出て来られて
最初に発せられた言葉は
「貴重な機会をありがとう」
だった。
そして、
「また演奏出来るとは思わなかった」
とも。
僕の方こそ
出演に感謝しているし、
まさか森山さんと一緒に
KJSが演奏出来るとは思わなかった。
2021年11月20日、
誰も想像しなかった事が起こる。