53歳、クワガタムシを飼う〜最終回 | 沖野修也オフィシャルブログ Powered by Ameba

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約1000キロの旅を終え、

無事に帰宅した

クワガタムシ。

 

僕が救出して

既に2週間が経過していたが、

"彼"は順調に生き延びていた。

 

東京から戻ったら

自然に戻すつもりでいたので

あとは

そのタイミングを

いつ見極めるかということが

僕に課せられていた。

 

あいにくの雨が関西でも降り続く。

どうせなら快晴の日がいいと

僕は

別れの時を

ズルズルと長引かせていた・・・。

 

ここまで書かなかったけれど

最初に"彼"を最初に見つけた時、

僕は、

片方のツノを切り取ることも考えた。

かなりクレイジーなアイデアだと思う。

 

ほぼ直角に折れ曲がったツノのせいで

樹液が吸えない訳だし。

それに

息も絶え絶えの状態で

僕に助けを求めてやって来たと

勝手に解釈していたからだ。

 

勿論、

切ることはできなかった。

大量出血?で

死んでしまうかもしれないし

そもそも

僕には

クワガタムシのツノを切る勇気がなかった。

 

恥ずかしい話だが、

飼育ケースやマットをGoogleで検索する際に

僕は、昆虫の病院がないかも調べていた。

ある訳ないよなと思いつつ・・・。

 

ヒットしたのは、

夏休み子供相談室(笑)の書き起こしだった。

 

アゲハ蝶を助けたかったのに

死んでしまった・・・

どうして虫の病院はないんですか?

という小学4年生の女の子の問いに、

非営利団体の昆虫科学教育館館長が答えていた。

 

アゲハは沢山の卵を産む。

でも、生き残るのはごくわずか。

そして生きている期間も短い。

だから治してもすぐ死んでしまうし、

そもそも人間とは生き方が違う。

 

そんな趣旨の回答だった。

 

女の子は、はい、と答えていたが、

その字面から

彼女のトーンは推測できなかった。

 

でも、

"救う意味なんてない"

僕が言われているような気がした。

 

子供の反応が芳しくなかったのか

館長が言い方を変えて説得を続けていた。

 

そして、

アシスタント役の女性アナウンサーが、

最後の方でこう付け加えていた。

 

チョウチョを助けたいなと思った

その優しい気持ちは大切にしてください。

と・・・。

 

僕になかなか解放してもらえない

クワガタムシに異変が起こり始めたのは

東京から戻って

3日ほど経ってからのことだった。

 

いつも通り、

2段重ねにして

昆虫ゼリーに

ツノを突き刺しても、

ツノを引っこ抜いて

食事を拒絶するようになったのだ。

 

それは、

食事を与えても

ハンガーストライキを決行する難民のようでもあったし、

延命措置を拒絶する末期の重病患者のようでもあった。

 

翌日も

クワガタは抵抗し

餌を食べようとしなかった。

 

その翌日も。

 

丁度

"彼"が家に来て

3週目になる日、

しかも快晴の朝。

僕は

"彼"が

飼育ケースの中で

動かなくなっているのを発見した。

 

 

僕は激しく後悔した。

どうせ死んでしまうなら

自然に戻してやりたかった。

"彼"の死を恐れて

解放しなかったのに

結果的に、

僕は彼を死なせてしまったんじゃないか・・・。

そんな自責の念にも駆られた。

 

クワガタムシをケースから取り出すと

自宅から程遠くない所にある

クヌギ林に連れて行った。

 

太く大きな木が

僕の手の届く高さで

二股に分かれていた。

そこに彼の遺体を置いた・・・。

 

死ぬ前に

自然に戻してあげられなくてゴメンね。

僕は心の中で呟いた。

 

妻に

"彼"の死を告げると

あんなに気味悪がっていたにも関わらず、

不思議なことに

一緒に悼んでくれた。

 

飼育マットを

庭の植木に分け、

食べなかったゼリーを

キッチンで水で洗い流した。

 

あの小学4年生の女の子は

館長の言葉に納得したんだろうか?

僕はふと

書き起こしの事を思い出していた。

 

夕方、

愛犬の散歩の途中、

墓標でもある

クヌギの木のそばを通りがかったので

"彼"の遺体を確認してみた。

 

すると、

そこに彼がいないではないか!

 

ひょっとしてまだ生きていたのか?

死んだフリをして僕を欺いたのか?

生い茂った木立に滅多に鳥は入って来ない。

遺体が風に飛ばされたのかと思い

木の根元を見てみたが

草むらにそれらしき姿はない・・・。

 

先はそう長くないだろう。

すぐに死んでしまうだろう。

 

でも、生きていて欲しい。

死ぬなら、

自然の中で逝って欲しい。

 

僕は、

強く、そう願う。

 

雨続きで久しく聴かなかった

セミの鳴き声が

クヌギ林に鳴り響いていた。

 

(おわり)

 

PS

 

捜索を諦め

愛犬と自宅に帰る途中、

今度はタマムシを家の近くで発見!

 

瀕死の状態で

全身にアリが群がっている。

僕は一匹残らず追い払い、

"彼”を救出する。

まだ動いていた。

虫の息とはまさにこの事だ。

 

 

ひょっとして、

これ、

53歳、タマムシを飼う・・・?

 

 

早速、ネットで検索し、

餌になるエノキを与えました。