既に皆さんご存知だと思いますが、The Roomの店長、佐藤強志が3月末をもって退職します。
バー・チーフ鈴木とほぼ同時期に、辞めたいという旨の連絡を受け、正直、僕も驚きました。
しかし、引き止められませんでした。
いや、もっと正確に言うなら引き止めませんでした。
The Roomのファンの皆さん、そして、佐藤強志本人にも大変申し訳なく思っています。すみません。心からお詫びします。
本来であれば、昇給するとか、社内の別部門への移動を提案するとか、彼がやってみたいことを新規事業として立ち上げるとか、何とかして彼の辞意を翻してもらうように交渉しなければいけないのですが、今の僕にはその余裕も才覚もないのです。
彼の決意をただただ聞くしかありませんでした。
佐藤は店長でしたが、実質的にThe Roomは彼の店であったと思って来ましたし、ディレクターであると考えて来ました。すっかり彼に店を任せて来ましたし、方向性も彼の意思を尊重して来ました。特に僕が京都に移住してからは、その時間と能力の全てをThe Roomに注いでくれたと思っています。
振り返ってみれば、僕の無茶なアイデアをいつも形にしてくれていたのは佐藤でした。
3度敢行した24時間ノンストップDJ。
ダンスフロアーに文字通りソファーを持ち込んだセッション・イベント、SOFA。
出演者が1曲づつプレイする名物企画、一曲入魂。
そして、10年続いたTokyo Crossover/Jazz Festivalの運営。
彼の貢献を数え上げたらキリがありません。
The Roomでプレイしてくれた数々のDJも、
The Roomからヒット曲を生み出したプロデューサー達も、
皆、The Roomを佐藤が守ってくれていたからこそ、店に足を運んでくれたんだと思います。
実は、The Roomで自分のレギュラーを辞めてしまったのにはこんな理由があったんです(現在はKyoto Jazz Massiveとして月例イベントを再スタート)。
それはとある夕方のこと、たまたま午後からThe Roomで仕事(メールのチェックやSNSでのプロモーション)をしていた僕は、その日のThe Roomのイベントの為にリハーサルを行う若手ミュージシャンに遭遇することになります。しかし、その誰もが僕を素通りし、佐藤に挨拶に行くではないですか・・・。
勿論、彼らは僕のことを知らないでしょうし、まさかオーナーがその時店にいることなど予想もしなかったでしょう。でも、その若いミュージシャン達が佐藤を慕う様子を見て僕はとても嬉しかったし、陰ながら店をサポートして来たことも報われる思いがしました。集客もあまり良くなく、示しを付ける為にレギュラーを辞めることをその時に決めたのです。
おそらく覚えてる人はいないでしょうけど、その後しばらくして僕は佐藤をプロデューサーに昇格することをfacebookに投稿しました。それなのに・・・。
流動的な都市開発の予定があり、当初2022年までと言われていたThe Roomの存続も新しく発表された東急建設のプランによると、2023年まではThe Roomもあの場所で営業が出来そうです。
しかし、最大の危機は去年訪れていたのです。常々赤字が出たら閉店するとスタッフに告げていたThe Roomが、売り上げの5%に相当する額のマイナスを出してしまったのです。一昨年好調だっただけに意外な数字でした。僕たちは油断してしまったのでしょうか?それとも、クラブシーンの変質の煽りを受け、ギリギリのボーダーラインを踏み外してしまったのでしょうか?
9末の決算の結果が11月上旬には明らかになり、12月末に決断し、3末閉店を想定しました。
ところが、その赤字を埋める額を佐藤が機転を利かせて翌期の売り上げ(2018年度ではあるものの)を繰り上げて振り込んだのです。もし、それがなければ、僕は自動的にThe Roomを閉めていたことでしょう。26周年の二日目に7年ぶりにThe Roomで出会ったカップルが久々に訪れてくれたこと、また、彼らに感謝されたことから継続の意思を改めて自分自身で確認したことはブログにも書きました。奇跡的にThe Roomは12月に劇的な売り上げを達成し、事なきを得たのです。佐藤の采配とスタッフの頑張りがThe Roomを救ったのです。
佐藤も去年50歳になり、お子様も誕生。自分なりに思うところあって、判断したのでしょう。理由も今後のことも訊かずに、僕は彼の申し出を受け入れました。毎年、年末になると継続するかどうかというプレッシャーからも解放してあげたかったし、四半世紀以上、その人生をThe Roomに捧げてくれたのだから、せめてこの後は、自分がやりたいことに挑戦して欲しいという思いもありました。
長い間ありがとう。
そして、引き止められなくてごめんね。
僕が彼に伝えたいことはただそれだけです。
勿論、今後の活躍や人生の充実を祈っています。
でも、上司としてそのチャンスを与えてあげられなかった僕が
頑張って・・・なんて言えないんです。
言える資格もないし、言える立場にもありません。
あるのは、ひたすら感謝と謝罪の気持ち・・・。
佐藤はある意味、東京のクラブ・シーンの顔でもありました。
DJやミュージシャンと築いた信頼関係は素晴らしく、The Roomの人的な財産は全て彼が築いたと言っても過言ではありません。
その独特な佇まいとユーモア感覚、そして何よりも彼特有の音楽センスは唯一無二のものです。
部下から右腕になり、気がつけばThe Roomの精神的支柱になっていた佐藤強志。
その損失は大きいですが、彼がまた遊びに来てくれることができるように、スタッフ一同、The Roomを守って行きたいと思います。
今週は、3/25~27までがミュージシャンの方によるお別れイベント、そして3/30が店長として最後のDJプレイを聴かせてくれることになっています。皆さん、是非、彼に会いに来てやって下さい。
沖野修也
PS
似顔絵は僕が描きました。