温故知新とは | 沖野修也オフィシャルブログ Powered by Ameba

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Kyoto Jazz Massive 沖野修也 Official Blog

 

Mother Of The Futureという名曲があります。

カルロス・ガーネットというレジェンド・サックス奏者が作った曲で、

ノーマン・コナーズというこれまたレジェンド・ドラマーがカバーしたことでも知られています。

カルロス・ガーネットの方はディー・ディー・ブリッジウォーターというレジェンド・ジャズ・ボーカリストが歌い、ノーマン・コナーズの方はジーン・カーンというこれまたレジェンド・ジャズ・ボーカリストが歌っています。

 

カルロスの原曲はと言いますと、ジャズ、ソウル、アフロ、ブラジル、ゴスペルを混在させた折衷主義的音楽で、呪術的でもあり、その高揚感は宗教音楽的でもあります。

 

僕のメイン・プロジェクト、Kyoto Jazz Massiveは現代で過去の音楽も含めあらゆる音楽の融合を目指しているので、ある意味このMother Of The Futureは理想的な存在でもあるんです。

 

で、このカルロスさん、僕、日本に招聘したことがありまして。

Selected by Shuya Okinoよろしく、歴代の彼の名曲の中から僕のフェイバリット曲を選抜し、

彼に演奏してもらったんです。勿論、Mother Of The Futureも。

ちなみにその時のボーカルはBemebe Segueというロンドン在住の女性ボーカリスト。

彼女はかつてMother Of The Futureのカバーをしたことがあったものですから、僕の彼女の抜擢を

大変喜んでくれました。

 

イベントの前日に彼と食事をする機会があったんです。日本人バック・バンドとのリハーサルもありましたので前乗りして頂いたんです。そして、色々とお話を聴く事が出来ました。

 

言い忘れましたが彼がどの位のレジェンドかと言いますと、マイスル・デイビスとアート・ブレイキーの両方と共演した数少ないジャズ・ミュージシャンなんです。その作曲能力や創造力で僕は評価してるんですが、それでは判らない人もいるので、この2大巨頭との共演話を引用させて頂くと、カルロスの事をご存知無い方もカルロスさんの偉大さにほぼほぼ納得して頂けます。それは凄いですね!と(苦笑)。

マイルスとのレコーディングの話、アート・ブレイキーとのツアーの話。それは他では聴けない秘話の連発でした。何でも自伝を執筆中だとか・・・。

 

メンバー共々やっぱりレジェンドは違うな〜なんて盛り上がっていた時に、隣りにいたジャザノバのユルゲン(彼もそのイベントにドイツからDJとして呼んでたんです)が、「シューヤ、カルロスにどうやってMother Of The Futureを作ったか訊いてくれ」と囁くではないですか。自分で訊けよと思いつつ、自分の理想の1曲の誕生エピソードを僕も知りたいなと思ったので、勇気を出して質問してみました。すると、とんでもない答えが!!!

 

「Natural born…」

 

え、自然に出来たん?

期待してた答えと違うんですけど・・・(苦笑)。

 

それでも、彼の言葉にはとても説得がありました。

R&Bのバンドで演奏し生活の糧を得て来た、カリブ出身のジャズメン。

レジェンド達との共演は勿論のこと、様々な音楽に慣れ親しみ、自己内部で自然な化学反応が起った結果、希有なクロスオーバー・ミュージックが生み出されたに違いないんですよね。それまでは、頭でどんな組み合わせがいい?とか、何と何をかけ合わせようか?と頭で考えることの多かった僕にとって、それは目から鱗とでも言うべき衝撃の真相でした。偏見なく異なる音楽に耳を傾け、自分の血や肉にすることで、誰にも思い浮かばない発想に辿り着ける・・・そんなシンプルな原則を僕は彼の豊富な経験談とその一言から学びとったのです。

 

ここ数年、国の内外に関わらず、若い世代にも古い音楽をプレイするDJ達が少しづつ増えて来ています。オランダのKamma&Masalo、イギリスのTouch & Bassなど、若い上に男女デュオのDJチームなんかも人気を博していますしね。

ディープ・ハウスの90年代回帰、7インチの隆盛、ACID JAZZから30年等色んな要素が考えられますが、音楽のサブスクリプションの普及で、初めて出逢った旧譜が新しい音楽であるという聴き方の変化も人に影響を与えているのかもしれません。ただ、中には、昔の曲を音楽を聴くけれど、昔の人の価値観には耳を傾けないという人もいると聞きます・・・。確かに僕も20代には30歳以上の人の言うことを無視していました(笑)。しかし、自分がそうだったからこそできる助言もあるのです。温故知新とは、古い音楽を聴いたりかけたりするだけでなく、何故その音楽が今も通用するのか?そして、今も通用する音楽がどうやって作られたのか?ということに思いを馳せることだと思うんです。"ウザい先輩達の忠告"は確かに面倒臭いことでしょう。やたら先輩風吹かせる年輩のDJやミュージシャンって僕も苦手ですもん。曲は最高なのに、人間性は最低!てのもいますしね・・・。でも、レジェンドのクリエーションの秘訣はきっとヒントになる筈です。そのエッセンスを盗み取り、自分なりにアレンジすることでこそ新しい創造が生まれるのではないでしょうか?

 

カルロス・ガーネットの話を聴いて、同じ組み合わせを試みるのではなく、そこに現代の音楽、例えばLAのビート・ミュージックやデトロイト・テクノまでをも取り入れることで、僕はクロスオーバー・ミュージックの可能性を拡張しようと考ています(実際の制作の際は考え過ぎないように気をつけていますが)。

 

曲をリスペスクトすることは当たり前で、むしろ、僕達が耳を澄まして聴くべきは昔の人の"価値観"や"精神性"だと思うんです。

 

若気の至りは、人生という旅の恥のかき捨て?でもいいんですが、かかずに済む恥は回避した方が良いかと。"誰か"に盲従する必要はないけれど、表層から深層へと潜り込むことで、本当の新しさとは何かを若い人に見付け出して欲しいと思います。

 

何事にも先達者はあらまほしきものなり・・・と言いますからね。