判決 | 沖野修也オフィシャルブログ Powered by Ameba

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Kyoto Jazz Massive 沖野修也 Official Blog

バンドは
オーディエンスの要求に答え
アンコールを演奏。

ステージ奥のカーテン裏で、
僕は機材チェックを行っていた。

ギャラを貰う以上
これは仕事。
でも
出来る事なら
ギャラもらないし、
回したくもなかった。

勿論、
やる前から
敵前逃亡な真似はプロとして失格。

でもね。

どう考えても
ダメだろうという時は
ダメなんですよ。

入場者の服装をチェック。
どんな曲に反応しているかをチエック。
一番盛り上がるダンス・フロアーのキー・パーソンをチェック。
年齢層をチェック。
男女比をチェック。
出音をチェック。
ライティングをチェック。
バーの賑わいをチェック・・・。






























































何もかも
チェックしたよ!

でも、
いい兆しが全くないんだよ!!


バンドが
演奏を終え
舞台の転換が始まった。

ライトがまるでイベントが終了したかの様に
明るくなる。

BGMが流れる中、
楽器がかたずけられ、
舞台前方にあらかじめ準備されていた
DJ+VJブースが押し出される。


観客達は
呑んだりしゃべったり、
さっきまでの
興奮が嘘の様に
素面でたたずんでいる。
ライブを見終えると
とっとと帰る人も
少なくなかった。

誰も
僕がブースに立った事を気にもしていない。
一瞥しただけで、
ビールを飲み干す男が一人。

BGMのリズムと全然関係ないダンスで
嬌声をあげる女が一人。

僕は、
一曲目の頭出しをする為に
ヘッド・フォンを
頭と左肩で挟み込む。

照明が落とされ、
僕は、
スペーシーなブギーで
スタートした・・・。

ところが、
もの凄い爆音で
何人もの観客が耳を塞いでいる。

すぐさま
ボリュームを下げた。

人がいるにはいる。
ただみんな
戸惑っていた。

踊ってない訳じゃない。
いや、
踊ろうとする意思は感じられる。
皆がお互いの顔を見合わせ、
打ち鳴らされるビートに
タイミングを合わせようとしてくれてはいる。

飲み過ぎ?
いや
どうもそうではないようだ。

おそらく
どうやって踊ればいのか判らないのかもしれない・・・。

僕が提案したBPMは、
110~115の間で、
テクノやハウスに比べると随分遅く感じられる早さだ。

バンドからの転換で
完全にフロアーが
素の状態になっていたから
スローな曲で始めて
自分の世界をデベロップする計画だった。

当然、
テンポを上げて行き、
ピークを目指してアップ・リフティングな曲をチョイスする。

僕の横では
手塚氏が
日の丸と
沖野修也という文字を(しかもグラフィカルな漢字で)
VJの素材にMIXし、
僕の勢いを視覚的にサポートしてくれてる。

ところが、
僕の奮闘と反比例するように
ダンスフロアーの人工密度がどんどん低くなって行く。

僕は、
一か八かの勝負に出た。
THE ROOMのレジデントでは
絶対ハズす事のなかったキラー・チューンを投入。
日本とオランダでは、
嗜好も流行も違う。
それでも、
追いつめられた僕には
唯一の選択であった。





































































全く反応がない(汗)。

僕の十八番、
これぞ沖野修也の切り札とでもいうべき曲でも
その過疎化を食い止める事はできなかったのだ・・・。

南仏のビーチでのBGM係も結構辛かった。
その後、ピーク・タイムで挽回するも
他のDJに比べると地味だった事は悔しかった。

それでも、
この時の失望に比べれば
そんなのは全然大した事ないように思えた。

判決が下されたのだ。
陪審員達が僕に突きつけたのは
有罪。

彼等を
踊らせる事の出来なかった
罪だ。


DJを終える頃には、
ダンス・フロアーにほとんど人影はなかった。

それでも
若い男が約二名
拍手をしてくれている。

最後まで
残ってくれたのは
彼等だけ。

熱心な僕のファン?
もしくは
僕が心を掴んだ数少ないオーディエンス・・・。

舞台を降りて
SWING-Oと
ROOT SOULこと池田憲一の元へ。

彼等にいい所を見せられなかった
恥ずかしさよりも
彼等が僕にかける言葉を見つけるのが
大変だろうなと思うと
申し訳なかった。

「こういうこともあるよ」

僕は、
つつみ隠さず自分の心情を吐露した。

「はるばる海外まで来てこれはないよね」

盛り上がっているフロアーから
どんどん
人が去って行く恐怖。

これ程
DJにとって屈辱的な事はない。

国民性の違い、
音楽性の違い、
告知不足、
無料イベント特有の
入場者の音楽的関心の低さ
時間帯の悪さ等
色々言い訳を考えるも、
結局は、
僕の知名度のなさ
或は
僕の事を知らない人でも
ノセる事のできるDJとしての力量不足
という事に行き着いてしまった。

明日のライブは
一体どうなってしまうのだろうか?

日本から
はるばる
バンド・メンバーを引き連れ
世界最大級のインドア・フェスにやって来た
僕の心に暗雲が立ちこめる・・・。







会場を出て
ホテルに向う途中、
突然
雨が降り出した。

近くにあったビルのエントランスの軒下で
雨宿りをする。

激しく降り付ける雨が
牢獄の様に
僕達の行く手を遮る。

僕は、
彼等を道ずれにしてしまった事を
詫びた。

ただし、
その言葉は
豪雨にかき消されるまでもなく
僕の沈黙に
抗う事すらできなかったけれど。