in the pool -4ページ目

それでもお腹は空く。

終わってから日が経つのは早い。
もう今となっては何て言われたかも詳細に思い出せない。
ただ、副審に冷ややかに嘲笑の意を込めた言葉を延々と投げられた。
それは全て真実で、私は「はい」としか答えられなかった。

ゼミの先生は道化師のように振舞っていた。
私を守る為でもあり、副審の静かな怒りを鎮める為でもあった。
この場に及んでも尚、先生は見捨てることはしなかった。
そんな事をさせる破目にした自分を恥じた。鈍い痛みが走った。

不覚にも教授の前で泣きそうになった。
だけどもそれだけは御免だった。
それを保つことが、自分が唯一持てる尊厳のような気がした。
だから耐え忍んだ。ただ耐え続けた。

規定時間の倍の時間が経っていた。
ドアを閉め、トイレに駆け込もうとした時、
既に私は声を殺して泣いていた。

感情は非常に複雑化していて、
自分でも何に対して泣いているのか分からなかった。
ただ、喉が締め付けられるのを抑えられなかった。
もう先生に会うことはないだろう、そう思った。


自分の背後を通り過ぎるのをじっと待って、通り過ぎた後に名前をつければいい。
遠い昔あの人が言った言葉が蘇る。


そうするよ。



捨てたくない。

寝坊した、バッテリー繋いでるのに休止モードでPCぷつんと切れた、本みつからない、
はらぺこでグーグー鳴る、結局たいしたこと出来てない様に思う、不完全。

だけども、どうしたって明日はきてしまう。
でも明日のことは分からないし、明日を考えたって意味はない。

と言い聞かせた。

たかが試験で、自由を奪われる筋合いはないはず。
確かに、明日怒鳴られることを私は今までしてきたかもしれない。
けど、それで私の全てが決まるわけじゃない。

と思い直した。

どーせ状況が悪いんだったら。
やっぱり憤りや跳ね返す力を捨てないでいたいと思う。

だから、とにかく心身の体調面だけを気をつけて、
あとは糞なりに浅はかな脳みその中で、答えられる範囲のことを答えることに努めようと思った。
自分の出来ることに集中しようと思う。それしかない。


ほんとに最後だ。

終わりの夜。

溜まっていた食器を全て洗った。
洗濯機も回した。お風呂に肩まで浸かった。
キャンドルを灯して煙草を吸った。
落ち着いたが、すっきりはしない。
今日一日、私はまた逃げ出した。

何度目だ、こういうの。数えるのも嫌になる。


怒られるのが怖いのか。
呆れた顔を見るのが怖いのか。
質問に答えられず真っ白になるのが怖いのか。
嘘がバレるのが怖いのか。

多分、ぜんぶひっくるめて懼れている。

嘘がバレて、質問責めに遭って、真っ白になって、怒鳴られて、呆られて終わる。
否定的な因果関係で結びつけ懼れを大きくしてしまう。

エレベーターに閉じ込められて規定時間に行けないなんてことも望んでしまう。
そしたら後日に延びるだけだ。何も終わってはくれない。何も変わらない。

明日も怖いし、明後日も怖い。時間が一秒経つのも怖い。
くそったれなんていう勢いも無い。悔しさも怒りも無い。
何も充てに出来るものも無いようだ。


また、やるしかないのか。


駄々をこねている自分が居る。



こういう時こそ音楽を聴こう。




電話の向こうは雪景色。

突然、電話が掛かってきた。
4年目にして初めて聞くような口ぶりだった。
だけども、さして違和感が無かった。少し安心した。

今日の良かったことは、思ったより試験が難しくなくてちゃんと書けたこと。
授業の試験はこれで全て終了した。全て受かっていると信ずるのみである。

憂鬱だったのは、諮問の副審がすごく厳しい教授だと発覚した事。
もう、乗り越えられそうにない。どうやっても太刀打ち出来ない。
その上で何をすべきかが見えない。怖い。怖い。怖い。

怖くて眠れないじゃなくて、怖いから眠っていたい、今度はそっち。



鍋が焦げた。貴重な肉が全て台無し。
肉を食べるなということなのか。
そんな風にしか考えられない。
部屋中が焦げ臭い。

私は馬鹿だ。



母に正直に言った。
「奇跡は起こると信じてあとはケセラセラ」

お祝いしたいと言われたら素直に喜ぼうと思った。




蛇口からは何が出る。

昔であれば少しぐらい味わいがあったかもしれないが、今にいたっては味気無いものである。


最近たのしかったことはベランダ掃除。

台所の蛇口から水を汲んできて、それを何度も床にぶちまけた。
使い古したスポンジで汚れを削ぎ落としながら、排水溝へと水を追いやった。
そのとき私は何も考えていなかった。ただ水を見つめていた。

機械的に何度も同じ動作を繰り返していると、私が興味惹かれたのは、
苔色をしたコンクリートの上を流れていく水の動きであった。

それが面白くなってきて、何度も水を流しては排水溝へと追いやっていた。
ふと、自分が楽しいと思うことは結局こういうことなのかと一つの疑問が浮かぶ。
だけども、この年齢でこの遊びが楽しいと感じるのも悪くはないかと思い直す。

それだけだ。


明日は試験。それが終われば諮問を残すのみ。
試験対策も、諮問対策も何もやっていない。
気持ちだけは約1年間続いているが、作業は1ヶ月が限界のようだ。
思い切り叫ぶ機会を見失った。

こんな勉強したくない。もう、いやだ。早く解放してくれ。
そればかり頭に浮かぶ。悶々とするだけ。
何度も思い直してきたが、結局いやなものは嫌なのだ。それが結論だ。


恵まれている事は本当に私のためになるのだろうか。