s嬢の秘めやかな日常 -4ページ目

不思議の国のまどろみの森12

仕方なく私は机に歩み寄り、バスケットの中を覗き込んでみた。

中には小ビンが一つと一枚のメモが入れてあった。

「…キレイな色。あれ?メモに何か書いてある」

見るとそこには

[Drink me.]

と書いてあった。

「えぇと、私を飲んで。…って飲むの?コレいかにもって感じで怪しいんだけど」

私はビンを持ち上げて光にかざすようにして見上げた。

ビンの中の液体は澄んだ青で、まるで海の中にいるみたいな感覚になる。

「とは言っても、飲まなきゃ話が進みませんっと!」

私は思い切って、ビンの蓋を開け、勢いよくその中身を飲み干した。

「…なんて事ないわね」

まぁ、毒とか入ってなくてよかったけど。

昔よく、ペットの犬とかに落ちてる物を拾って食べちゃいけませんって注意してたけど、まさか自分がこんなわけわからない物を拾って口にする日がくるとは。

でも、

「!?」

急に眩暈に襲われた。

やっぱり飲まなきゃよかった。

後悔しても、もう遅い。

眩暈は段々激しくなり、周りの風景が移動していく。

倒れると思い、衝撃に堪えようと目をギュッと閉じた。




next

不思議の国のまどろみの森11

私が何も言えずにいると、チェシャ猫は皆アリスが好きだよ、と付け足した。

それって、食材として好かれてるって事?

「…嫌すぎる」

下を向いてぶつぶつと考えていると、先程まで前に感じていた気配がなくなっていた。

しかも、不審に思って回りを見渡すと、何故か可愛い部屋の中にいた。

部屋はピンクを基調としたフリフリに包まれている。ベッドとタンスの上には沢山のヌイグルミ。真ん中に備え付けられた机の上には一つ、バスケットが置いてあった。

「チェシャ猫?」

名前を呼んでも返事はない。

本来あるべきはずの扉もない。



next

不思議の国のまどろみの森10

「ずっと思ってたんだけど、お茶会って何処で開かれるの?」

「帽子屋の家」

「…」

結局、帽子屋の所に行くんだ…。

私はうんざりといった気分で、とりあえず猫に付いていく。

それから一切会話無し。

沈黙に堪えられなくなった私は、思い付く限りの質問をチェシャ猫に浴びせた。

「ねぇ、何で私がお茶会に行く事知ってたの?」

「君がアリスだから」

「何でよ?」

「アリスは帽子屋さんのお茶会に参加するものだと決まっているからね」

「…そもそも何で私をアリスって思うのよ」

「ん?」

チェシャ猫は少し考えて

「…ニオイ」

と言った。

匂い?

私、何か臭うのかな?

自分の体を臭ってみる。

「?」

やっぱり、自分で自分の匂いはわからない。

「私の匂いってどんなの?」

「甘いね」

「甘いの!?」

「そう。美味しそうなニオイがするよ。だから花も君を放さなかったんだね」

チェシャ猫はニヤニヤ笑いでサラリと怖い事を言ってのけた。



next

不思議の国のまどろみの森9

そう言われると、私が向かおうとしてた所には花畑の影さえ無かった。

「ぁ、私の友達」

「トモダチ?」

チェシャ猫は首を傾げる。

「そう!あの蔓に連れていかれちゃったの」

「それはもう…」

「言わないで!お願いだからそれ以上言わないで!!」

急いでチェシャ猫の口を塞ぐ。

「そう?」

チェシャ猫は私の心情を知ってか知らずか、納得してくれたみたいだ。

「ところで、重ね重ね申し訳ないんだけど、ここ何処ら辺?」

「ここは、まどろみの森だよ。おいで、連れていってあげるよ」

チェシャ猫は、そっと手を差し延べてくれた。

「連れていくって、何処に?」

「お茶会場」

そうだった。

「…それとも、帽子屋の所がいいかい?」

帽子屋…散々怒鳴り散らした揚げ句、勝手に逃げて来たから、もしかしてすっごい怒ってるかも。

「…お茶会に連れていって下さい」




next

不思議の国のまどろみの森8

よく考えると、三月ウサギも人型だけどウサギみたいだし。

「どうかした?」

「ひゃっ!?」

いろいろ考えていると、チェシャ猫に声をかけられてかなりびっくりしてしまった。

「…!?」

「あ!ごめん、何でもない」

私の声に、私以上に驚いたようだ。

顔は変わらずニヤニヤ笑いのままだけど。

「そう?兎に角、下手に花畑には近付かない方がいいよ」

そして、チェシャ猫はさっき摘んだばかりの花を見せた。

「一応言っとく。コイツが花達の親。この森に花畑なんてないよ。幻覚だから」




next

不思議の国のまどろみの森7

「あ…ありがとう」

「お礼なんか要らないよ。君、アリスだね?どうりで花達が喜ぶ訳だ」

男はニヤニヤ笑いをしながら、私をじろじろと見る。

「あ、あのぅ、助けて貰って言うのも何ですけど、貴方、何者?」

恐る恐る聞いてみた。

何が怖いって、助けてくれたその人自身が怖い。

花に食べられかけた事なんて、この際どうでもいい。

今は、ただ目の前にいる男に全神経が集中していた。

だって、常にニヤニヤしているし、口はかなり大きくて(口裂け女じゃなくて口裂け男?)、おまけに耳と尻尾が生えている。

でも、やっぱり整った顔立ちをしている。

この国はこんな人ばっかなのだろうか?

「チェシャ猫」

暫く首を傾げていた男はいきなりチェシャ猫とだけ告げた。

「は?チェシャ猫?」

「そ。僕の名前」

「猫…なの?」

「猫だね、どう見ても」

とても猫には見えないけど、さっきから耳をピンピンさせている所を見ると、やはり猫なんだろう。

偽物の耳にはとても見えないし。

人食い花があるんだったら、人型の猫もありなんだろう。




next

不思議の国のまどろみの森6

「助けようか?」

ニヤニヤ笑いで私に問い掛けてくる。

私はこの国の住人に馬鹿にされてるのだろうか?

「…」

私は、ムキになって返事をしなかった。

「君が食われると困るんだけどなぁ」

「そう思うんだったらさっさと助けてよ!」

「君が望むなら」

先程まで木の枝の上で寝そべっていた男は、身軽に木から飛び降り、私の倒れている所から少し離れた所に着地した。

そして、

ぶちっ

一輪の花を手折った。

すると、体に巻き付いていた蔓がみるみる緩んでいく。




next

不思議の国のまどろみの森5

絡み付いてくる蔓は見覚えがあった。

扉から現れて、雪乃を連れ去ったあの蔓だ。

「あ、貴方、今食われるとか言わなかった!?」

「うん。言ったね」

私が蔓から逃れようと必死にもがいていると、飄々と答える。

「食われるって何によ!?」

「だから、花達」

「花が人食べる訳ないでしょ?!」

確かに食虫植物はあるけど、まさか花が人を食べるなんてあるわけない。

「食べるよ」

「いぃやぁあ!」

とやかくやっている内に、体はもはや半分ぐらい蔓が巻き付いて、私は思わず悲鳴を上げた。

不思議の国のまどろみの森4

その先に見えるのは花畑。

私は少し安心して歩を進めた。

「そっち行っちゃ危ないよ。行かない方がいいと思うなぁ?」

「私の事はほっといて下さい!」

折角森から、変な人達から逃げれるんたから。

「君がいいんだったら別止めないよ?けど…」

「きゃあ!?」

けど、と言われた途端、何かに足をとられた。

「そこの花達に食われるよ…って、もう捕まっちゃった?」

足に絡まっているのは、

「また、薔薇の蔓…?」

ん?ちょっと待って…。

食われる?




next

不思議の国のまどろみの森3

しばらく森の中を走り抜けて…。

「逃げて来たのはいいとして、まず考えるべきは…ここ、何処?とにかく帰…」

走り疲れて立ち止まった時、私は重大な事を忘れていたことに気付いた。

「夢中で走ったから帰り道がわかんない!そういえば、私、この国の事なんて全然知らないんだった…。あーもぅ!こんな事なら逃げるんじゃなかった」

「お嬢さん。何かお困りかい?」

不意に、頭上から声が降ってきた。

びっくりして上を見上げると、木の枝の上に人が寝そべっていた。

「また変なのがでた…」

そう呟いて、私は回れ右をした。




next