ハリスの学生たちとイスラエルへのスタディトリップに行ってきました。

 

イスラエルといえば、「STEM教育に成功してスタートアップが発展している中東国」というイメージで、正直パレスチナとの衝突については「何回か戦争してるよね」程度の認識しかありませんでしたが、今回の旅を通じて思うことが色々ありました。

 

幾つかトピックごとに今回の学びをまとめてみます。

 

なお、事実関係についてはイスラエル・パレスチナ双方の関係者から聞いた話をまとめていますが、私の誤解や当事者の思い込みもあるかもしれないので、ご指摘があればありがたいです。

 

●イスラエルの領土ってどうなってるの?

以下の3つのエリアについて知る必要があります。地図でいう緑色の部分にあたります。

 

(Wikipediaより拝借)

 

①    West Bank(ヨルダン川西岸地区)

1967年の第三次中東戦争でイスラエル軍によって占領されて以降、パレスチナ政府とイスラエル軍がA地区、B地区、C地区に分けてパレスチナ人を統治しています。

A、B地区はパレスチナ政府が行政権を持っているが、税金はイスラエルにも納めている模様。

全体の60%を占めるC地区はイスラエルが事実上統治しているが、行政サービスが全くといっていいほど行き届いておらず、信号や道路標識などもありません。電気や水道も満足に使えず、建物の上に雨水を得るためのタンクを設置しています。(なお、白色のタンクは常温用、黒色のタンクは日に当たって温まるため温水用とのこと。)

 

 

また、深夜に住民を叩き起こして取り調べをすることもあるようです。

こうした様々な「嫌がらせ」を通じて、パレスチナ人を追い出し、実効支配を進めているというのが現状なようです。

 

West Bankに居住しているパレスチナ人がイスラエル側に行くには「check point」と呼ばれる関所を越える必要があるのですが、通勤等のために自動車が毎日長蛇の列になっており、日によっては渡るのに4、5時間かかることもあるそうです…。

 

 

②    Gaza(ガザ地区)

ガザ地区の現状は、誤解を恐れずに言うなら「ハンターハンターの流星街」かもしれません。ガザ地区は若年人口が多く、人口が急増しているものの、失業率は40%を超えると言われています。イスラエルはガザ地区内部での状況を正確には把握していないようですが、テロ行動の前兆については何らかの方法で把握している模様。

ガザ地区は2007年以降、Hamas(ハマース)と呼ばれるテロ集団が武力占拠しており、ガザ地区との境界近辺で居住しているイスラエル人の生活はHamasのテロ行為により継続的に脅かされているようです。下の画像は実際の飛来物です。

 

 

③    Golan heights(ゴラン高原、又はシリア高原)

ゴラン高原は、1967年に第三次中東戦争でイスラエルがシリアから奪って実効支配を行い、1981年に併合を宣言した地域です。したがって、国連では「イスラエルによって不当に併合されたシリア領」という認識になっています。シリア系住民がとどまって生活しているほか、「Settlers」と呼ばれる入植者を送り込み、イスラエル人の人口を増やそうとしています。

 

 

●イスラエルとパレスチナの対立はどうしたら解決できるの?

公式に合意がなされているわけではないものの、よく引き合いに出される解決方法が「two state solution」です。

人によって解釈が違う部分はありそうですが、大雑把に言うと、イスラエルとパレスチナの領土を一つにして、国内での移動の自由を保証しつつ、ユダヤ教徒とパレスチナ人の二つの指導者が並び立てて国家を運営していく、という方向性のようです。

一方で、同じ国家のなかに二つの意思決定スキームが内在しては、国家としての運営が成り立つのか、疑問しかありません。事実、今回話を聞いたイスラエル・パレスチナの人たちからも全面的に賛成という声は聞こえませんでした。(唯一、親イスラエルなパレスチナ人高官は支持していましたが、彼はイスラエルに買収されているんじゃないのかなと何となく感じました…完全な憶測ですが)

 

私のポジションとしては、正直に言うと、イスラエルのやり方は各種嫌がらせやsettlersの送り込み、分離壁の建設等を通じた実効支配の拡大を行っており、かなり悪どく、パレスチナに対する同情の気持ちが強いです。日本国としても、ゴラン高原についてはシリア高原と呼称しています。

 

一方で、ガザ地区のHamasがテロ行為を行っている以上、パレスチナがいくら国際法に則って主張しても「お前が言うな」と各国は思ってしまうのではないでしょうか。少なくとも中立国が全面的な支援を表明するのは難しいのではないでしょうか。

元イスラエル政府高官も言っていましたが、Win-Winでの解決は望めぬものの、このままの状況が続けば双方が損をするわけで、Lose-Loseの損失をどうおさえるか、お互いの利害を長期的に認識した上で双方の譲歩が必要不可欠だと思います。

 

 

●思ったこと: 宗教の役割とは

宗教は、人の精神的な安穏や連帯を生み出してきたかけがえのない役割がありました。

その一方で、人間同士での大規模かつ根深い争いを生み出す要因になっていると思います。

少なくともインクルーシブでない宗教は、そうした問題を抱えがちに感じます。例えば、ユダヤ教は新たに信者になる方法が極めて限られており、基本的にはユダヤ教徒の配偶者を持つしか方法がなさそうです。その分、連帯が強く、イスラエルに来ればある種の「特権」を持つことができるわけですが。

 

国民国家も、宗教に比べると歴史はかなり浅いものの、果たしてきた役割と問題点はかなり似ているかもしれません。しかし、人の生活を実効的に保障するには国家に勝る社会システムはまだ開発されていません。

 

中東での争いが複雑化しているのは、国境と宗教が一致しておらず、国境を越えてシーア派とスンニ派がそれぞれ連帯していることも要因にあると思います。(ハンチントンの『文明の衝突』を思い出します)

 

こうしたことを踏まえると、国民国家を解体するのは今の世界では不可能であるため、相互理解が進んで宗教がインクルーシブになっていくことで争いが少しでも収まっていくのが良いのではないかなと思います。具体的な方法はわかりませんが…。