テレビを観ていた息子が、
「ヒモジイ思いって何?」
 と聞いてきた。
 はぁ?
「じゃ、『妖怪ウオッチ』の「ひも爺」の意味分かってなかったの?」
「分かってねえよ」
 そうかぁ、今の子はヒモジイって意味もわからんのか。
 そりゃ、私たちの世代って、上の世代から「お前らは腹一杯食えて幸せだ。俺らは毎日ヒモジイ思いばっかりしてた」
 などと言われて育ったからな。
 ヒモジイの意味はしっかり伝わってた。
 なのに私たち自身はヒモジイ思いをしてないし、日常的に使わない言葉はなかなか伝わって行かないものだしね。
 よし分かった。
 ここでヒモジイを徹底解説してあげよう。
 まずヒモジイは、ヒモジの形容詞化。
 ヒモジい気持ちってことだな。
 それでは「ヒモジ」とは何かってことになる。
 これを漢字で書けば「ひ文字」。
「ひ」の付く言葉の状態ってこと。
 そこで「ひ」の付く言葉は何かと言えば「ひだるし」。
 空腹でどうしようもない状態。
 江戸時代、京のお公家さんたちは、仕事もなく、貧しく、毎日お腹をすかせていたんだとさ。
 ところが、お腹がすいても、高貴な方々は「ひだるし、助けて給もれ」とは絶対に言えない。
 公家としての誇りがある。
 だから「まろは今「ひ」文字じゃ」などと言って、間接的に、上品に、空腹や困窮を訴え、色々と恵んで貰っていたんだと。
 これがいつの間にか庶民にも広がり「ひ文字い」に化けた。
 こういう背景を知れば、私たちの一つ上の世代の「戦時中はひ文字い思いばかりだった」という言葉も、少々意味深に聞こえないか。
「腹減った」じゃなく「ひ文字い思い」だったんだよ。
「ひだるし」は「だるい」という言葉で現代にも生き残っている。
 もともとは空腹で動けない状態を意味してたんだ。
 英語の「dull」とは発音も意味も似ているが、これは偶然。