2023年12月27日にリリースした保坂修平トリオのアルバム「ボス・サイズ・ナウ」。
アルバム収録の各曲について、CDのライナーノートに書ききれなかったこと。
今日は3曲目の解説です。
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3, America
サイモン&ガーファンクルの傑作「ブックエンド」(1968)に収録されている。「アメリカ」を探してニューヨークに向かって旅する男とその恋人を描いている。「アメリカ」のワードには夢、成功、幸せなど、さまざまな思いが込められているのだろう。道中、不安や孤独に苛まれる姿が共感を誘う。
僕の母はサイモン&ガーファンクルが好きだった。実家にカセットテープがあって、中学生の頃よく聴いていた。それで主要な曲は子守唄のように体に入っている。なかでもこの曲の印象が強い。
その後あまり聴かなくなり、再びサイモン&ガーファンクルというか、ポール・サイモンに興味を抱いたきっかけは、ビル・エヴァンスが弾いたI do it for your love。エヴァンスの演奏は神がかって美しく、すぐに原曲を探した。原曲が収録されているアルバムStill Crazy After All These Years(1975)を聴いてポール・サイモンの名前が急に大切なものになった。エヴァンスがI do it for your loveを弾いていたのは1970年代末だから、まさに同時代のヒット曲を取り上げていたことになる。このエヴァンスの嗅覚というかアンテナの張り方もさすがだ。
大人になって、好きな曲は歌詞まで読むようになった。そしてポール・サイモンというアーティストの繊細で、アイロニカルで、少しシャイなロマンティシズムに強く共感した。それから再びサイモン&ガーファンクルの世界に戻って歌詞を読むと、これまた一筋縄ではいかない奥深い世界が構築されていたことを知った。
それにしても「アメリカ」という存在。この強大な存在は現代日本にとって「父」のようなものだ。そのあまりも大きく暴力的なまでの影響に惹かれると同時に反発するアンビバレント。もちろん日本には長い歴史と文化があるから、「新興国」であるアメリカに対してある種の優越感というかプライドを持ってもいいとは思う。しかしどうしても超えることのできない巨大な山であることは否定できない。
アメリカ人にとっても、この「アメリカ」というものは誇りの源泉であると同時に、憎むべき対象であるのだろう。
作品の背景として当時(1968年)のベトナム戦争に対する反感、厭戦感情、幻滅もテーマとして織り込まれているとは思う。
しかし、このような「大きな主語」で語ってもあまり意味がないかもしれない。
思うに、この曲にはそうした時代背景を超えて心情に訴えかけるものがある。
僕個人としてはジャズ・ミュージシャンとして、アメリカへの永遠の憧れがある。一生かなわないという敗北感も同時にある。それからいわゆる「アメリカ人」の非常にクレバーで好戦的なパーソナリティ、実利至上主義マインドに対する拒否感がある。
ところで、ポール・サイモンのAmericaからは、夢や誇りのようなプラスのオーラがほとんど感じられない。支配的なのは漠とした不安、憂鬱、逃避願望。それからキャシーという恋人と戯れる束の間の幸福感が描かれている。このような情景が、巨大な目標物に対するアンビバレントな心情をとても詩的に、やわらかく提示する。このやわらかさの中で、中年の僕に大いなる癒しが訪れる。
少年時代には分からなかったことだ。
最後まで、ありがとうございます。
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保坂修平トリオ「ボス・サイズ・ナウ」
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