令和元年8月16日、ジャック・ペレッティ著、関美和訳の『世界を変えた14の密約』という書籍を読破 | 松陰のブログ

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令和元年8月16日、ジャック・ペレッティ著、関美和訳の『世界を変えた14の密約』という書籍を読破しました。

 この書籍は、私のバイアスやものの見方にゆらぎを与えてくれるものでした。現在、実行されている政策の裏に潜む利権の問題を考えるきっかけになるであろう。この書籍は、訳者のあとがきに記載されているように、ビジネスが政治を駆逐し、一握りの人たちが世界の大半の富を握り、砂時計のように中間層がなくなって砂粒が下方に収斂され、ロボットが人の仕事を奪うのではなく、人間がロボットの仕事を奪わなくては生きていけなくなるような未来の姿を示したものである。そして、金融、食品、薬品、仕事、政治、ビジネス、テクノロジーなど、14の切り口から世界の過去と現在と未来をオムニバス形式で描いている(481頁参照)。

 第1章・現金の消滅について。現在、世界の潮流として、キャッシュレス化が進んでいることです。私見を申し上げれば、決してキャッシュレスを否定するわけではないが、完全なキャッシュレス社会は危ういように思えます。キャッシュレス化により、迅速かつ簡易な決済が可能になることは分かります。ただ、迅速さと利便性と引き換えに大きなものを失っているように思えます。特にセキュリティの問題。これだけハッカーによる攻撃やシステムトラブルが発生している現状を鑑みれば、全ての貨幣を電子化するのは危ういと思います。やはり、現金と電子化を併用した貨幣制度が最適かつ妥当だと考えいます。

 また、書籍内で記載されている神経学的な実証結果も完全キャッシュレス化を危惧させるものです。現金で支払いをする時には、神経に痛みを感じ、キャッシュカードで支払いをする時には痛みを感じない(13頁参照)。私には、買い物をする時に神経に痛みを感じる方が正常な状態のように思えます。キャッシュレス化が多重債務者を増加させ、国民を借金漬けにするように思えてなりません。自己責任社会と言いながら、自己責任できない社会環境を提供していて、そんな社会環境の中、自己責任と追及できるのであろうか?キャッシュレス化により、銀行が衰退し、テクノロジー企業が国家経済の主権を握り、主役になる(27頁参照)。キャッシュレス化という流れの中、水面下で、業界間の主導権争いが行われているのである。

 次に、第6章の「国民全員を薬漬けにする」は衝撃的でした。製薬会社が薬を売るために新たな病気を作りだす(169頁参照)。世も末だと思った。最近の医薬・医療業界は危ういと感じました。また、本書では、テイラーの科学的管理法(208頁参照)とトム・ピーターズとロバート・ウォーターマンの『エクセレント・カンパニー』(212頁参照)を批判していましたが、私の考えは違います。私は、テイラーは、経営学を科学にしたパイオニアだと思います。テイラーの実験があり、科学的な実証があったからこそ、今日の経営学の繁栄があるのであり、確かに、現代の経営学とは差異はありますが、時代背景を考慮して評価すべきだと思います。一方、トム・ピーターズとロバート・ウォーターマンの『エクセレント・カンパニー』は、経営管理において、機能的で重要な要素を掲げています。それは、現在でも通用する普遍的な要素だと思います。ただ、組織には、組織内適合と組織外適応があり、7Sは両方に有効的な要素ではあるが、組織外適応における、社会的な価値観、規制、政府、国際化、競合企業との競争関係などの要素の変化により、7Sが誤解され、機能しづらくなっています。例えば、昨今、日本的経営が批判されていますが、日本的経営は、決して悪い制度ではなく、本来、あるべき組織の姿を示しています。しかし、社会変化、環境変化により、日本的経営が採用しづらくなっている。それは、自然の流れではなく、この書籍内で一貫して述べられている意図された環境変化により日本的経営が無機能化したのです。

 第10章の「企業が政府を支配する」について(304頁参照)。企業が政府よりも力を持った社会は民主主義の終焉に等しい。基本的には、企業は営利団体であり、利益の追求を目的とします。民意を反映した政府が民意を反映していない営利団体に支配される状態は、憲法よりも上に共産党が位置する共産主義と変わりません。格差社会や階級社会の根源が、この企業と政府とのパワーバランスの変化にあることが書籍から読み取れます。第11章の「フェイクニュースが主役になるまで」について。著者の的を射た話しに感心しました。現在のマスコミの現状を現した的確な記述を挙げると、「恐れにつけこむ」。事実を新しい何かに変えた。事実とは粘土みたいなもので、それをこねまわすと代替現実に、つまり売り込みたい「物語」に変えることができる(346頁参照)。こうした恐れが現実の根拠に基づいていたかどうかは重要ではない。重要なのは事実ではなく、大衆の感情の流れだった(350頁参照)。科学にも誇張が必要になってきた。研究が注目されなければ、資金が集まらないからだ。注目を集めようと思えば、極端で、大げさで、不正確な研究になる(358頁参照)。マスコミの本来の役割は、(完全なるバイアスのない情報は存在しないが)よりバイアスのない客観的な事実を報道するものだが、現在は、客観的な事実よりも、利権や利益を取得するため、自分達に都合のよい世論を作るため、意図された(故意にバイアスを付与させた)誘導する情報を報道することに移行している。より国民、視聴者のリテラシーが必要になってきたのである。なぜこのようにフェイクニュースが事実として世論として形成されるのか?そのひとつの要因にグループダイナミックスの脅威が挙げられます。

太平洋戦争に向かった大日本帝国。戦争へと向かう過程で、集団心理の中、戦争に関する功罪を冷静かつ客観的に判断できなくなる。グループダイナミックスの怖さであり、ある世論が形成され、一旦、集団(組織内)に認知されると、それが間違っていても、集団心理と組織内の圧力の中、否定できなくなるのである。マスコミに正義感がなくなり、商業主義になったことが、現在の状況になった要因であろう。この書籍に、この状況を的確に表した記述があります。「人々が注目するのは、中立的な報道ではなく、攻撃的な意見だ。「事実」は説得力のある主張に合わせて形を変え、都合のいいところだけが切り取られ、弾丸のように狙ったところに撃ち込まれる(370頁参照)」。

 第12章・ロボットと人間の未来について。仕事を手作業と認知作業、ルーチンの手作業と非ルーチンの手作業という二つの軸からなる4象限のマトリクスで表しています(391頁参照)。仕事がAIに置き換わられる中、人間の労働はどう変わるのだろうか?シンギュラリティへの対応である。AIが仕事を人間から奪えば、ますます階級社会と貧困格差が広がるであろう。本来、人間に支払わるべき賃金がAIに支払われ、所有者や経営者のみに利益が循環する社会になるからである。格差が広げるのは明らかです。この状況を予測していた人物がいた。それは、私が尊敬する経済学者のケインズである。1930年代、ケインズは自動化によるユートピアとディストピアのシナリオを描いていた(391頁参照)。そして、この書籍には、その解決策が記載されている。イーロン・マスクは、ユニバーサル・ベーシックインカムのアイデアを再び持ち出した。私達の仕事は人間であり続け、店で買い物をすることになる(まだロボットにはそれができない)。おカネを使うことによって、消費主義を生かし、資本主義を存続させることができるので、これは重要な仕事である。ビル・ゲイツは、別の角度から富の創造の問題に取り組み、ロボットの仕事に税金をかける必要があると言った。企業が人員削減で得た節約分に税金をかけることで、ユニバーサル・ベーシックインカムの資金を賄い、道路や病院や軍隊などの国家運営の費用を払い続けられる(391頁参照)。私もこの意見を支持します。

 この書籍には、私が大好きなビートルズも登場します(79頁参照)。また、若干、校正上のミスがあります。12頁において、「国法銀行法→国際銀行法」、197頁において、「可能にするのは、は2012に→可能にするのは、2012に」、256頁において、「しかにひとつの問題があった→しかしひとつの問題があった」、346頁において、「わたしたは、ある男に→わたしたちは、ある男に」

 この書籍の内容と真の意図を端的に紹介する文章が訳者のあとがきにある。「企業の密約が世界を変えた」と言えば、ありがちな陰謀説だと思われるかもしれない。しかし、本書はそんな陰謀説を掲げてスキャンダルを暴露しようとする本ではない。むしろ、それとは正反対だ。この本は、今私達をとりまくこの世界が、偶然の産物ではなく、ある意図のもとになるべくして今の形になったことを、歴史的な事実と綿密な取材に基づいてひも解いていく。本書を読めば、ばらばらに見えた点と点がつながり、目の前にある世界が違う角度で見えてくる(481頁参照)。