川添象郎オフィシャルブログ -132ページ目

プロデューサーの仕事とは?(1/3)  ~人間社会の中で完結できる事に不可能はない~

Ken(以下K)「象郎さん、ずばり聞きます。象郎さんが考えるプロデューサーの仕事とは何でしょう?」

象「ウーム!その質問はアバウトだな~、 Kenちゃんはどう考えてるの?」

K「あるプロジェクトの全体を統括する人、ですね」

象「それは正しいけど一部分だな~
プロジェクトと云っても様々な分野があるだろう?
科学なのか、藝術なのか、スポーツなのか、イベント、開発事業、会社立ち上げ、ETC 、 ETC。
大きく捉えれば人間の営為全てについてプロデュース的要素があるんじゃない?

優れたプロデューサーの一つの例を挙げようか。
日本ではじめてロケットを飛ばした、糸川英夫さんという人なんだけど、
その人はプロジェクトに対する自分のアプローチを「組織工学」というまとめ方をしたんだよ。
いろんな会社からスペシャリストを選抜してチームを作って、例えば燃料の専門家だとか、流体力学の専門家だとか、とんでもないスピードで飛ぶわけだから素材の専門家だとか、もちろんエンジンの専門家だとかいるわけでしょ。
で、一番最初にまずやったのが飛ばすにはどういう障害があるか、何が起きると飛ばなくなるのか、言ってみればネガティヴな事を全部言わせたわけ。」

K「逆転の発想ですね。」

象「まあ、そういう言い方もできるかも。
で例えば、エンジンの専門家がこうやりたいと言ったら、素材の専門家がそんなことやったら溶けちゃうとかさ。
そういうのを全部出させたわけ、全員に。
次にやったことは、それを一つ一つ消していく作業なわけ。
それで全部消えた。
で、見事成功し飛ばせたのよ!えらいなあ~
だけどこれは科学の世界の一例で、ボク等が携わっているエンターテイメントの世界はもっと抽象的、流動的部分が加わるのである意味ではもっと複雑な要素があるよね、
一生懸命作品創りをしてチーム全体がこれは良いからHIT する、と盛り上がってもダメな場合が多々あるよね。
そういうの、スタッフマスターベーションっていうんだよ。

だからレコード創りでHIT を出すなんてのは、元々ギャンブルみたいなもんで最近のメジャーレコード会社、特に外資系の会社は“費用対効果”測定などと云ってるけどバカバカしくて話にならないよ、それは後付け屁理屈としか思えない。
そんなことでスタッフやARTISTを縛ったら皆、萎縮して冒険心もなくなり良い作品など生まれる訳が無い。
今のレコード音楽業界は深刻な構造不況に悩んでるけど、良い音楽を求めているマーケットはしっかり現存しているよ。

ITの出現で流通に劇的変化が起き、その上プロツール等と言う音楽を創る機械が出来ちゃって音楽の教養も、勉強もしていないアマチュアが簡単に“作品らしきもの”が創れちゃう時代になったことにレコード会社が飛びつき、安手の音楽モドキを粗製乱造したあげく今の体たらくになっちゃたんだから、自分等で勝手に自殺行為をしていると思えばザマーミロ!というしかないね。

おまけに官僚的な偽善倫理をふりかざし、芸能人に“清く正しい従順な”行動をさせようなどちゃんちゃら可笑しくて、そんな奴らはこの仕事やめたら? って思わない?」

K「いや、でも本当にそうですよ。」

象「テクノロジーの進化で音楽制作も流通も劇的変化が起きる事など20年前から判っていた筈なのにそれに対する聡明な見通しを持った経営者がいなかったのがこの状況を創りだしたとしか思えない。
HIT を求めるならば、作品創りは優れた音楽性豊かなARTIST を大事にし、また育てて、マーケット(大衆)をバカにせず心にひびく音楽をつくること。
そして良い作品が出来たらそれを如何にマーケットにアクセスするか、つまりプロモーションにも創造性がなければダメだよ。

それらの“人事を尽くして”あとは“天命”を待つんだな、、、、
命がけで取り組まなくちゃ天命(運)も来てくれないね。
プロデューサーの仕事は、これに尽きるんじゃない?」

K「なるほど。」

象「人が集まって創り人々に売って行くのだから、要は人間社会の中で完結できる事に不可能はないんだよ。」

K「僕が前に象郎さんから聞いた話でこの人、そこまでやるのかと感動した話があって。
ある曲のデモが出来上がって、それをスタッフに渡してミーティングしたんだけど、
その時に象郎さんがスタッフに、曲の評判はどうですか?と聞いたらスタッフは、すごくいいですね、と。
普通ならそこで終わりなんだけど、象郎さんは誰に聞かせたんだ?何人のアンケートを採ったんだ?と。
スタッフは、レコード会社内のスタッフです、と。
で象郎さんは、マーケティングのターゲットではないレコード会社のスタッフ3~4人に聞かせても、まったく参考にならない。
おれがアンケート採りに行く、と言ってi-podとヘッドフォンを持って、近くのコンビニに入っていって、ヒマそうなコを見つけて、それこそナンパしてww」

象「いつもは向こうから来るんだけどねww」

K「ヘッドフォンをかけさせて、曲を聴かせる、という。
で、その曲は切ないラブソングだったから、そのコが泣いたら、その曲はヒットするだろう、と。
結果3人に2人が泣いて、リリースにGOを出した、という。」

象「ここにいるよ、の話ね。」


(2/3に続く)