高市の「台湾有事」発言の「後遺症」で中国からの観光客が減っている。それに対する「意見」のなかに、とても奇妙なものがある。
①中国人観光客が減っても困ることはない。中国人観光客が減り、経営に困っている旅館は、中国人観光客がこなくても大丈夫な対策を立ててこなかったからだ。ほかの国から観光客を呼べばいい。(あるホテルは中国人客を拒否しているから、なんの問題も起きていない)
②中国人観光客が減ってよかった。中国人は、大声で話し、マナーが悪い。静かな観光地に戻る。
①は、ホテル・旅館の「経営責任」の問題なのか。日本は、以前は「魅力的な工業製品」をつくりだす国だった。「産業国」だった。しかし、いまは世界に誇るような産業が少ない。だから政府はトヨタを守るために必死になっている。そして、その「産業力(工業力)」の衰退を穴埋めするために「観光立国」のような政策を立てた。観光客がはいってくるような政策を推進した。それに沿って、観光業界は動いている。政府の方針にしたがって行動しているのに、その行動を邪魔するようなことを高市がしているのである。このことに目を向けないといけない。
同じことは、コメ政策についても起きている。コメ不足だ、コメを増産しろ、いやそれではコメがあまる、減産しろ。そして、その政策は、農家だけではなく、国民の生活全体に影響を及ぼしている。コメは、もう5キロ5000円の時代である。
「コメ不足? 私は支持者からもらっているので、売るほどあまっている」と言った大臣がいたが、困っているひとのことを忘れてもらっては困る。
中国人観光客を受け入れるために、中国語が話せるひとを雇った旅館・ホテルもあるだろう。雇われたひとたちの生活はどうなるのか。仕事がなくなった場合、どうすればいいのか。一生懸命勉強した中国語をいかせる仕事はどこにあるのか。彼らは、みんな、政府の「インバウンド推進政策」を信じて、行動したひとである。
政府を信頼したひとが、政府によって苦労している。高市の一言に打撃を受けている。
そのことを、高市支持派は、考えてみたことがあるのか。
「よその国からの観光客を増やせばいい」と言うが、そのために何をすべきなのか。東南アジアからの観光客を増やすには、それなりのプロモーションが必要だし、スタッフの育成も必要だ。
だいたい「中国へ宣戦布告」(私には、そう思える)をした国へ、旅行したいと思うひとがいるだろうか。日本へ行ったはいいが、戦争がはじまったら帰国できないかもしれない。そんな国へ旅行したくないと思わないだろうか。ほかの国が「日本への渡航中止勧告」を出さないだろうか。
②は、私たちが中国語の発音になれていないことが原因かもしれない。しかし、だれだってはじめて旅行した海外で、友人がそばにいれば大声で感想を話すだろう。ほかのひとのことなど気にしないだろう。(自分が、友人とグループで海外へ旅行したときのことを思い出せばいい。あるいは、日本人が「農協ぐるみ」の団体旅行をしていたことを思い出せばいい。ぞろぞろ、大声で話しながら歩いていなかったか。)ほかの外国人が「静か」なのは、彼らがすでに「海外旅行」になれているからなのかもしれない。
他人の会話が「うるさい」のは中国人だけにかぎらないだろう。日本人同士が新幹線のなかで大声で話していることもあるだろう。そのとき、ほかの日本人はどうするだろうか。気になれば「少し静かにしてください」と注意するだろう。うるさいひとに注意するという簡単な行動もできないひとが、「中国人はうるさい」と言っているだけなのではないか。うるさくて我慢できなければ、注意すればいいだけである。
②は、「マナー違反」を見ても、見て見ぬふりをするひとの意見にすぎない。そのことをあれこれ言っても、どうしようもないが、①は重要である。
高市支持派は①が「政治問題」であることに気がついていない。
私たちの生活は、どんな小さなことでも政治に結びついている。
学校の近くの道路に信号機付きの横断歩道をつくる、ということも「政治」である。横断歩道を設置し、信号をつけるためには予算がいる。どの場所がいちばんいいか調べるための調査も必要だし、押しボタン指揮の信号の場合、青信号にかわるまでの「時間設定」を決めるにも交通量の調査が必要だろう。そういうことのためには、予算がいる。「税金」をつかうのだから。
「インバウンド推進」のためには、予算がつかわれている。何もホテル・旅館だけではなく、そうした政策を立案するための役人(公務員)も働いている。そうした公務員の給与も「税金」から支払われている。そうやってつかわれた税金が、高市の一言で、無駄になってしまうのだ。
「予算」をともなわない「政治」は何ひとつない。だから「予算委」では、どんな問題でも話すのである。高市支持派は、
③高市の「台湾有事発言」を取り上げるのではなく、「予算」そのものの質問をしろ、時間の無駄遣いをするな
という意見も言っているが、それは「政治」というものをまったく知らないからである。何度でも書くが、予算をともなわない「政治」など、何ひとつない。
中国人は税金も払っていない、というような意見もあるが、観光客は一様に「消費税」を払っている。その税額は少ないように見えるかもしれないが、かなりの額になるはずである。学校近くの道路に信号機付きの横断歩道をつくるくらいの金額には、あっという間に到達するだろう。(もちろん消費税が信号機設置につかわれるわけではないが。)
「小さいもの」は見えにくい。しかし、私たちの生活は、小さなところでも「政治」に直結している。
具体的に、自分自身と中国人との接触から見つめなおし、意見を言わないといけない。
私のことを書いておけば。
すでに書いたことだが、私は不定期のアルバイトで日本語を外国人に教えている。そのなかには中国人もいる。(台湾のひと、大陸のひと、とも)。私の時給は1600円だが、その1600円でも欠けると月々の生活に響く。中国人と接する機会のあるひと、そういう機会をとおして生計を立てているひとは日本に何人いるだろうか。
核兵器だか、トマホークにいくら金がかかるか、その金かあれば何ができるか、私は具体的に考えたことはない。しかし、「台湾有事」が拡大し、日本が中国から攻撃されるようなことが起きる前に、その攻撃によって死んでしまうかもしれないと心配する前に、私は、もし1600円収入が減ったら、それをどうやって穴埋めするかを考える。戦争で死ぬ前に、餓死して死にはしないかと心配する。