小倉金栄堂の迷子20260430/20221211
(一日)
剽窃した当初は、どんなことばだったのか忘れた。剽窃であることを隠すために何度も書き換えられた。「愛するよりも愛してほしいと考える方に力をつかって、くたくたに疲れてしまった。愛してほしいと思う気持ちは消え、憎む方に力をつかうようになってしまった。そして、だれを憎んでいるのか忘れ、憎むという気持ちが体中にひろがってしまった」。一日のうち一回だけ開かれるページにいたことばは、行間に入ってきたことばを、手のひらをつかって押し退けようとしたが、妙な抵抗がかえってきて、接続詞「そして」が落ちてしまった。その瞬間に、「だれを愛していたのか忘れ、愛したという記憶を思い出すために、新しい愛がはじまった」というしずかな絶望にかわった。そういう夢を見るという設定で、物語はつづいていった、という註釈はどこへ消えてしまったのか。鏡のある部屋だったろうか、座面がまわる椅子のあるカウンターだったろうか。探してみたが、見つからなかった。