なぜ、読売新聞やその他の新聞は、今回の高市発言に対して「撤回要求」をしないのか。
私の見方では、この問題は田中角栄の「自衛隊のベトナム派兵拒否」にまでさかのぼる。ベトナム戦争が拡大したとき、アメリカは日本(田中角栄)に、自衛隊のベトナム派兵を要求した。
これは、いまでいえば「日本の存亡の危機」である。なんといっても、「日米同盟」の相手、アメリカがベトナムで攻撃を受けている。同盟国(アメリカ)の軍隊が攻撃を受けるのは、「日米同盟」の日本が攻撃を受けるに等しい。いまなら、トランプは絶対に「自衛隊派兵」を要求してくる。そして、高市なら、絶対に「自衛隊派兵」を命じる。しかし、田中角栄は、「日本国憲法第九条は、戦争の放棄を宣言している。だから派兵できない」と拒否した。
その結果、田中角栄は「金権問題」を追及され、首相を辞めさせられた。角栄が自衛隊のベトナム派兵を受け入れていたら、角栄政権はつづいていたはずである。アメリカが、どんな具合で実行したかわからないが、あの動きの背後には、アメリカが関与しているはずである。
これを自民党議員(少なくとも「首相」をめざすひと)は知っている。アメリカの「派兵要求」を受け入れなければ、あらゆる手段をつかってアメリカは「首相交代」(首相辞任)工作をする。せっかくつかんだ首相の座を失いたくない。だから、どの首相もアメリカの要求には「すなおに」したがう。日本国憲法を楯にとって立ち向かうという「論理的な行動」をとらない。
高市にいたっては、自分から進んで「台湾派兵」をアメリカに「通告」している。「台湾有事」は中国へ向けた発言ではなく、アメリカ(トランプ)に向けての発言である。アメリカ(トランプ)は、いま、カリブ海(ベネズエラ)対策で忙しい。台湾にかまっていられない。そういうこともあって、高市は「台湾はまかせておいて」とトランプに言いたかったのだ。つまり、「台湾のことは、私がやるから、私の身分はトランプが守ってね」というわけである。
メディアには、一般の読者(視聴者)には知ることのできない情報がたくさんはいってくる。そして、その情報を「処理」して、読者(視聴者)に伝えている。
もし、その「処理」を間違えて、トランプに不利(つまり高市に不利)なことを報道してしまっては、高市よりも前に自分たちがつぶされるということを知っているのだ。
トランプは、トランプ批判をしている新聞社に圧力をかけた。日本のメディアが高市批判をすれば、高市はすぐにメディアに圧力をかけるだろう。高市には、すでにテレビ局に対して圧力をかけたことがある。放送許可を取り消そうとしたことがある。あのときは、首相ではなかった。いまは、首相である。すぐに、圧力をかけるだろう。
多くのメディア、とくに新聞は売り上げが激減しており、経営が苦しい。小さな圧力でも、すぐに屈するだろう。高市から圧力をかけられたくない。だから、高市批判をしないのである。高市に「台湾有事発言を撤回しろ」とは要求しないのである。
「公正」をよそおって、高市の発言の問題点を指摘すると同時に、中国の「反応」をも批判している。どっちが悪い、ということはわかっているはずなのに、「中立」をよそおっている。
間違いを間違いだと指摘し、その解決策を提示しないのは、間違いを「容認/是認」し、その間違いを指摘するものを否定する行為である。いま、新聞各社がやっているのは、そういうとんでもない間違いである。
そして、それは戦争を引き起こすのである。第二次大戦前の新聞と、何も変わっていない。権力の求めるがままに情報を処理している。権力が求めるがままの情報を発信している。