青柳俊哉「はなとうみ」ほか(朝日カルチャーセンター福岡、2025年07月21日)
受講生の作品。
はなとうみ 青柳俊哉
ヤマユリ イワカガミ
雪解け水が山の芽吹きをなづける
イワナシ ハクサンイチゲ ハクサンチドリ
夏に秋にはながさきつづける
光が雪の意志を感知して蔵王のはなをはこんでくる
この山に王がいきるかぎり はなはさきつづける
ツクシガモ カクセキレイ
潟の潮が磐井の王の息吹をなづける
シオマネキ オオハシシギ オオシャミセンガイ
光が潮の意志を感知して王のうみをはこんでくる
この潟に王がいきるかぎり
うみはさきつづける
ことばが繰りかえされる。「雪解け水が山の芽吹きをなづける」の「なづける」は「潟の潮が磐井の王の息吹をなづける」の行で繰りかえされ、「夏に秋にはながさきつづける」の「さきつづける」は「この山に王がいきるかぎり はなはさきつづける」「うみはさきつづける」と繰りかえされる。カタカナで書かれた花、あるいは鳥、海辺の生き物以外の行には、繰りかえしがあり、それが「対」になって輻輳する。これがおもしろい。技巧的とも言える。
カタカナの行にも繰りかえしの音があった方がよかったのか。
これは、実際にやってみないことには、効果がわからない。だからこそ、やってみる価値があるかもしれない。
青柳のことばの展開は絵画的な場合が多いのだが、今回の詩には音楽的なあり、とても興味深かった。
*
モディリアニは踊る? 池田清子
モンパルナスのカフェの前
橙色の 街燈の下で
モディリアニが踊っている
酒と薬におぼれて でも
とても楽しそうに 一人で
よく似合う帽子を
とったりかぶったり
我が家の前の道路には
通りをはさんで
たくさんの街灯がある
明るい LEDか
近くの公園には
「大声は誰でもできる護身術」
という川柳が
防犯にはとてもありがたい
でも 白色の街灯の下では
モディリアニも踊るまい
セピア色の灯りの中で
モディリアニと
一晩中 踊りあかしたい
「街燈」と「街灯」と書き分けられている。「橙色」と「白色」の違いが反映している。そして、文字で見ただけではわからないが、池田は「街燈の下(もと)」「街灯の下(した)」と「下」という漢字を読み分けた。
そういう「書き分け」「読み分け」のなかに「モディリアニ」が動く。「こだわり」があこがれの画家を呼び寄せる。
ことばにこだわること。
それは詩にとっては、絶対に不可欠なことであると思う。「意味」(論理)以外にうごくものが、きっと詩の「動力源」(栄養素)がと思う。こだわりの積み重ねが「個性」になる。
*
地球人ファースト 堤隆夫
排除するものは 自らが排除される
剣を取るものは 自らが剣で滅びる
仮想敵をつくるものは 自らが仮想敵となる
いつか みんなで笑うために
心の寛容と安寧こそ
平和の礎
今 私たちが生きている「ここ」も
ガザのパレスチナ人が悲しみの今を生きている「そこ」も
同じ地球という名の星にある
地球人ファースト
悲しみの想像力は 現地にいなくても
時空を超え 思いは一つ
私たちは皆 母の胎内から生まれてきた同じ人間
生きることの幸せは あなたと共に穏やかな日々をおくること
必要な時 必要な医療が いつでも受けられますように
私たちは皆 幸せになるために
この星に生まれてきた
人の不幸の上に立つ繁栄はいらない
「 今 私たちが生きている「ここ」も/ガザのパレスチナ人が悲しみの今を生きている「そこ」も」の「ここ」と「そこ」を区別する(分ける)ものは何か。堤は、それを「同じ」ということばで否定する。「一つ」ということばでつかみとる。
同時に、堤は「必要な時 必要な医療が いつでも受けられますように」ということばで「自己主張」をする。これは、とても大切なことだ。「自己主張」(自己の存在理由/存在基盤)、つまり「個性」がなければ、その「想像力」は抽象になってしまう。「自己主張」を「道」として実践してきた堤の強さが自然ににじみ出た詩である。
講座が、たまたま参院選直後の日にあったので、「ファースト」ということばが話題になった。「医療ファースト」という実践が、そのまま視野を広げていく、世界を広げていく。広がった先に、たしかに「一つ」はある。それは「一つ」に「なる」、「一つ」に「する」ということなのだが、それはいつでも「一つ(実践)」と直結している。
**********************************************************************
★「詩はどこにあるか」オンライン講座★
メール、googlemeetを使っての「現代詩オンライン講座」です。
メール(宛て先=yachisyuso@gmail.com)で作品を送ってください。
詩への感想、推敲のヒントをメール、ネット会議でお伝えします。
★メール講座★
随時受け付け。
料金は1篇(40字×20行以内、1000円)
(20行を超える場合は、40行まで2000円、60行まで3000円、20行ごとに1000円追加)
1週間以内に、講評を返信します。
講評後の、質問などのやりとりは、1回につき500円。
★ネット会議講座(googlemeetかskype使用)★
随時受け付け。ただし、予約制。
1回30分、1000円。(長い詩の場合は60分まで延長、2000円)
メール送信の際、対話希望日、希望時間をお書きください。折り返し、対話可能日をお知らせします。
費用は月末に 1か月分を指定口座(返信の際、お知らせします)に振り込んでください。
作品は、A判サイズのワード文書でお送りください。
お申し込み・問い合わせは、
yachisyuso@gmail.com
また朝日カルチャーセンター福岡でも、講座を開いています。
毎月第1、第3月曜日13時-14時30分。
〒812-0011 福岡県福岡市博多区博多駅前2-1-1
電話 092-431-7751 / FAX 092-412-8571
*
オンデマンドで以下の本を発売中です。
(1)詩集『誤読』100ページ。1500円(送料別)
嵯峨信之の詩集『時刻表』を批評するという形式で詩を書いています。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168072512
(2)評論『中井久夫訳「カヴァフィス全詩集」を読む』396ページ。2500円(送料別)
読売文学賞(翻訳)受賞の中井の訳の魅力を、全編にわたって紹介。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168073009
(3)評論『高橋睦郎「つい昨日のこと」を読む』314ページ。2500円(送料別)
2018年の話題の詩集の全編を批評しています。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168074804
(4)評論『ことばと沈黙、沈黙と音楽』190ページ。2000円(送料別)
『聴くと聞こえる』についての批評をまとめたものです。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168073455
(5)評論『天皇の悲鳴』72ページ。1000円(送料別)
2016年の「象徴としての務め」メッセージにこめられた天皇の真意と、安倍政権の攻防を描く。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168072977
問い合わせ先 yachisyuso@gmail.com