池井昌樹『理科系の路地まで』(11) | 詩はどこにあるか

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池井昌樹『理科系の路地まで』(11)(思潮社、1977年10月14日発行)

 「春の汽車」も「春埃幻想」の一部。。

春の汽車 走るところ
いちどきに
レンゲの土より湧き立つ蒸気や
無意識界に埋もれた記憶や
それらがみんないちどきに
死馬の湯気みたいにとろけ出し
しゅっ じゅ しゅっ じゅ
ぷわ ぷわ ぷむ ぷむ あたりいちめん
菱餅のようなももいろになり……

 「死馬」には「そま」というルビがふってある。こんなことばを中学生の池井はどこからみつけだしてきたのか。私とは違った世界を生きてきたことを強く感じてしまう。中学生だったとき、私は、そのことばを知らなかったが、実はいまでも知らない、というべきか。私の持っている辞書には「死馬(そま)」ということばはない。
 そして、その何か不気味な漢字(でも、読み方は、中国語風ではないだろう。古い日本語だろう)が、「とろける」というやわらかな動詞と結びつくところが、池井のことばの不思議な世界である。死んだ馬という不気味な「意味」は、いつのまにかひらがなオノマトペにかわって「あたりいちめん」をつつんでしまう。
 なんだか、「とりとめもない」が、これは最終連に出てくることばでもある。

ああ 春の汽車
さくらもちの匂いのこの情緒
春の情緒は茫漠として
とりとめもない
印度象の腹を感じさせる

 「印度象」にびっくりしてしまう。どこから、そのイメージがやってきたのか。見当がつかない。かけはなれたものを結びつけるのが詩であると言ったのはだれだったか、忘れてしまったが、これには驚くしかない。
 しかも池井は「腹」に注目している。焦点をあてている。これにはさらに驚いてしまうのだが、同時に、また別のことを思ったりもする。
 いまの池井からは想像できないが、私が出会ったころの池井の特徴は「腹」である。それは何でも飲み込んでしまう。そして、たとえばラーメンを食べると、その「体積」がそのまま池井の腹を形づくる。こんなことは詩とは関係がないと思うひとがいるだろうが、私には関係があるとしか思えない。池井の腹は、それはそれでひとつの宇宙なのである。池井は「頭」ではことばを動かさない。「肉体」、特に「腹」でことばを動かしているとしか思えない。「におい」は、ここにも出てくる「さくらもち」のように、多くの場合「食べ物」と結びついている。いやなにおいのものは食べない。うまそうなにおいなら、食べる。池井は、「おいしいことば」を「におい」で選りすぐり、それを食べている。食べたものを消化して、肉体から排出する。それが池井の詩である。




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