團菊祭五月大歌舞伎(歌舞伎座、2025年05月13、14日)
八代目菊五郎襲名披露。菊之助の襲名披露を兼ねている。
菊五郎、菊之助、玉三郎の「娘道成寺」が大変面白かった。菊之助の踊りに目がくぎ付けになった。玉三郎を見るのは初めてなので、玉三郎に目をやるのだが、すぐ菊之助に引き戻される。
11歳とかで、体力的に無理な動き(たとえば膝を落としての鞠つき)もあるのだが、それを上回る魅力がある。
何よりも踊りが好き、舞台が好きという本能が溢れかえっている。それが輝きを与える。恨み、怨念(女の怖さ)の表現はまだ幼くて不十分だが、そんなことを、忘れさせる踊る喜びが楽しい。
玉三郎が洗練された動き、簡潔な繊細の美、菊五郎がしっかりした動きで、娘というより、老いの気品を身にまとう淑女、倦怠さえを知っている熟女なのに対して、菊之助は処女なのに、すでに男を誘う術を知っている怪しい娘という感じ。しなやかな身体をいかして自在に、しかし強靱に動く。身をそらしたときの色っぽさ、うなじの魅せ方の色っぽさ。それは、背中、身の側面でも演技ができるということだ。菊之助の姿勢は身体的に厳しいからこそ、それは観客に不思議な美しさを伝える。高齢の玉三郎、男盛り(でもないかもしれない)菊五郎にはできない、これからも変化していくものだけが表現できる生命感があふれた美しさがある。
何よりも驚くのは、菊之助は身長が低いのに、菊五郎と同じ大きさに見えること。いや、ときには菊五郎よりも大きく見える。なぜか。視線が菊五郎と同じ高さを見ているのだ。菊五郎が1.7 メメートルの高さを見ているとしたら、その高さを見ている。その視線に誘われるから、同じ身長に見える。たぶん目でも演技する役者なのだ。誰かが教えたと言うより、舞台に立つことで身につけた勘かもしれない。
私は歌舞伎ファンではないし、私の見方は歌舞伎の見方から逸脱しているかもしれないが、菊之助の「追っかけ」をやってみたいとさえ思った。
菊五郎は、「知らざぁ、言って聞かせやしょう」の「弁天娘女男白浪」が見せ場だったのか。しかし、物足りない。清潔すぎる。せりふも動きも、ひとつひとつ取り上げれば合格点なのだろう。しかし全体を内部から支え、貫く力、不透明なエネルギーがない。やくざがもっている不良性に欠ける。屋根の上の大暴れが特徴的だが、最後に疲れたように息をつく。それがそのまま、ここで疲れ切った演技をするをとってつけた感じ。前の動きと肉体がつながっていない。だから、最後の自ら死を選ぶシーンが、仕掛けのだけが目立って肉体の苦悩がない。つまりは、こころの苦悩もない。菊五郎ではなく、菊之助の弁天娘をぜひ見てみたい。菊之助は、弁天娘をやるときには、どんな役者になっているだろうか。
團十郎は「勧進帳」が面白かった。團十郎は身体を大きく見せる方法を体得している。誰でも爪先立てば大きくなるが、團十郎は天地だけでなく横にも拡大させる。体幹から全身へ筋肉を押し広げる。手のひら、指先まで力がみなぎることで体が大きく見える。目をかっと見開くのは、その余波である。つまり顔だけの演技ではない。「俊寛」を見たとき、團十郎の手の演技に見入ってしまったが、團十郎は手でも演技ができる役者だと改めて思った。そして、この肉体を拡大してみせる演技は、弁慶が大酒をのむシーン、さらにつづく結末の演技に結集する。義経を守り通し関所を抜けた喜びが花道の飛び六方になるのだが、そこに大男の無邪気な喜びがあふれる。ああ、この動きまねしてみたい、と思わず思う。こんな気持ちにさせてこそ役者だ。
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