池井昌樹『理科系の路地まで』(7) | 詩はどこにあるか

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池井昌樹『理科系の路地まで』(7)(思潮社、1977年10月14日発行)

 「車窓より」。電車の車窓だろうか。説明はない。突然、

夜の寺
何が潜んでいるかわからない門の奥に
ひろびろと暗く ひとつのあかりが灯っている

 何が潜んでいるか「わからない」。しかし、そこには「ひとつのあかりが灯っている」という事実がある。ただし、その「あかり」というか「門の奥」というか、池井が見ているものは「ひろびろと暗」い。この「ひろびろと」ということばは不思議だ。直接的には「暗く」とに結びついているのだが、その「暗さ」を飛び越して「あかり」にも影響している。「暗さ(闇)」を押し退けるようにして広がる「あかり」。この明かりは、閉じ込められていない。
 不思議な矛盾がある。この矛盾は説明することができない。解きほぐすことができない。矛盾のまま、受け止めなければならない。
 この書き出しは、最終連で、こう変奏される。

夜の寺
あたりはしいんとして人気も無いのに
ひろびろと暗く ひとつのあかりが灯っている

 この「あたり」は寺の門の奥、境内である。境内である限り、そこには限界があるのだが、その「枠」を取り払ってしまうのが「暗く」と「あかり」を結びつける「ひろびろ」ということばであり、追加された「しいん」という「音」である。