自民党憲法改正草案を読む/番外273(情報の読み方)
年金をめぐり、麻生が「老後に約2000万円の取り崩しが必要」という「資産形成報告書」の表記をめぐって釈明した、という記事が、2019年06月08日の読売新聞(西部版・14版)2面に載っている。見出しは、
麻生氏「不適切表現」釈明/金融審議会報告書 「老後2000万円必要」
その記事によると、
報告書では、65歳で定年退職して95歳まで生きる夫婦の場合、毎月約5万円の赤字が続き、30年間で約2000万円が不足するとの試算を示した。この試算は、平均的な家計の支出と年金収入などを単純に差し引きした計算で、貯蓄や退職金などを考慮していなかった。
麻生氏は「あたかも赤字なんじゃないかというような表現をしたのは、表現自体が不適切。そうじゃない方もいっぱいいる」と話した。
しかし、これで「釈明」になるのか。
「貯蓄や退職金などを考慮していなかった」というが、言い換えれば「貯蓄や退職金で2000万円の資産」がなければ「赤字」になるということだろう。年金以外に2000万円必要なことにかわりはない。
だいたい国民のすべてが65歳の退職時に「貯蓄+退職金」で2000万円の蓄財があるというのは「事実」なのか。麻生自身、「そうじゃない方(2000万円の赤字にならないひと)もいっぱいいる」と言うが、「いっぱい」とは何人、国民の何%か。ぜんぜん具体性がない。
それに「老後に約2000万円の取り崩しが必要」というときの「取り崩し原資」は何なのか。「貯蓄+退職金」ではないのか。言い換えると、「貯蓄+退職金」で2000万円になるように資産を(貯蓄を)不増やす必要があるということだろう。「貯蓄+退職金」で2000万円あるから、年金が少なくても赤字にならないと、そんなノーテンキな考え方をだれがするだろうか。年金だけでは赤字、何かのための「担保」としての「貯蓄+退職金」を「取り崩す」しかない、というのが一般のひとが考えることではないのか。
麻生の発言を聞いて、国民のだれが、「65歳時の貯蓄+退職金」のほかに2000万円必要だと思っただろうか。年金だけでは生活できない。退職するまでに、退職金を含めて、2000万円貯蓄しないと生活できない、と受け止めたのではないのか。年金以外に2000万円必要なことにかわりはないのではないのか。
これでは、とても「釈明」とは言えない。年金だけで生きていけないことが、より明確になったというべきだろう。
訳がわからないのは、読売新聞の態度である。他紙は知らないが、よくこういう発言をとらえて、読売新聞が「釈明」と受け止めたものだ。
書いた記者は、「自分の退職金と貯蓄をあわせると65歳のときには2000万円は確保できる。だから、月々約5万円の赤字にはならない」と考えたのか。2000万円がなくなるまでは、年金がいくらであろうと月々の赤字は発生しないと考えたのか。たとえば、年金が月に1万円だとしても、「貯蓄+退職金=2000万円」があるから、毎月の赤字はゼロ、とでも考えたのか。それで、ほんとうに「安心」したのか。
こんなばかげた説明を「釈明」と呼び、年金だけでは毎月5万円の赤字になっても、貯蓄や退職金があるから大丈夫、心配はいらないと言う「論理」がわからない。だいたい65歳で退職する人の何人が「貯蓄+退職金」で2000万円確保できるのか。その人数を確認したのか。少なくとも、麻生に、そういう人は何人いるのか。「いっぱい」ではなく、具体的に問いただしてみる必要がある。
今回の「釈明」で明確になったのは、年金だけでは毎月の収支に赤字になる。毎月、どこかから約5万円を工面する必要があるという、麻生が最初に語った「事実」に何の変わりもないということだけだ。
年金だけでは生活できないというのが、絶対的な「事実」なのだ。
不足分を国が補てんするということもない、というのも「事実」なのだ。
問題は「表現」ではなく、「事実」だ。
新聞は「表現」ではなく、「事実」を伝えるべきだ。
#安倍を許さない #憲法改正 #天皇退位
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