池澤夏樹のカヴァフィス(107) | 詩はどこにあるか

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107 絶望の中で


彼をすっかり失った。 今は誰か別の
恋人の唇に彼の唇を 探し求める。
新しい恋人を 抱きしめるたびに、
これは前のあの 若者なのだと
自分に 言い聞かせる。


 「誰か別の/恋人の唇に彼の唇を 探し求める」というだけなら、誰にでも経験があるかもしれない。この絶望は、二連目で、こう言いなおされる。


恋人は言ったのだ。 こんな病んだ
汚れた愛から 自分を救いたいと。
汚れて恥知らずな 性の快楽から。
今ならばまだ 間に合うと。


 カヴァフィスは、彼を失ったことよりも、このことばに絶望したのではないだろうか。彼は、そのことばをほんとうに実行したのか。それともカヴァフィスから逃れるためにそう言っただけなのか。
 たぶん、後者だろう。
 性の好みは変えることはできないだろう。この詩を書いているカヴァフィスは「汚れて恥知らずな 性の快楽」のなかに、いまもいる。同じ快楽を体験した彼。彼だけが、それを捨て去ることができるとは思えない。もしかすると、カヴァフィスは、そういう彼を、いつか、どこかで見かけたかもしれない。
 それがカヴァフィスを絶望させる。

 池澤は、詩の構造(脚韻)について註釈しているが、実際にどういう韻なのか書かれていないので、「構造」があるらしいということしかわからない。




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