池澤夏樹のカヴァフィス(72) | 詩はどこにあるか

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72 煙草屋の飾り窓


明るく照らされた煙草屋の
飾り窓の近くに立つ何人かのうちに二人はいた。
偶然に二人の視線が合った。
禁じられた肉体の欲望が
おずおずと、ためらいがちに、示された。
そして落着かなく舗道を何歩か進む--
おたがいにほほえみ、うなづきあうまで。


 映画の一シーンのようだ。カヴァフィスの描く「美貌」はいかにも慣用句という感じだが、ここでは「美貌」のかわりに肉体の動きそのものが書かれている。「動き」があるために映画のように感じられるのだろう。
 より「映画的」にするために、二人が眼をあわせたのは飾り窓のガラスの中だと思ってみる。窓に映った互いの顔、その眼。それぞれが互いのガラスに映った顔を見ていると思うとおもしろい。
 ガラス窓だから、そこには「ノイズ」が映る。その「ノイズ」を超えて、二人は互いの欲望を確認する。見えにくいものを、見る。
 「おずおず」「ためらいがち」「落着かなく」は一種の繰り返しだ。繰り返すことで、「事実」を深めていく。確信にする。

 池澤の註釈。


煙草屋のショーウィンドーまではだれの眼にも明らかに見えるものであり、ここに描かれた二人もそれぞれ目に見えるはずだが、その先、二人がお互に気付くところからは不可視の領域に入る。


 うーん、何のことかわからない。
 同性愛であれ異性愛であれ、二人が出会ってしまえば、あとは肉体が「知っていること」が始まるだけだ。「不可視」と池澤は書いているが、それは「見る」必要がない。言い換えると「見せる」必要もない。二人にしかわからないことだが、だれもがわかっていることを、わかっているようにするだけだろう。








 


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